《2020年6月16日放送》
SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。
◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。
サンセット・パーク
著 者 ポール・オースター
発 行 2020年2月
出版社 新潮社
ある空き家に不法に住み着いた4人の若者が、明日への希望を糧に生きる姿を描いた物語。
当たり前だと思っていた日常が、そうでなくなりつつある今だからこそ読んでもらいたい一冊。
時はリーマンショック後のアメリカ、ニューヨーク。
ブルックリンの霊園近く、サンセットパークにある一軒の空き家に不法居住した4人の若者達を中心に、章ごとに登場人物が入れ替わりそれぞれの視点で物語が進められる群像劇。過去に囚われ全てを捨てたマイルズ、デブなドラマーのビング、性的妄想が激しい画家のエレン、高学歴のプライドが邪魔して思うように行かないアリス。ひょんな事から空き家に住み始めた4人はそれぞれに悩み、そして後悔や葛藤を繰り返しながら、どこかに希望を抱きつつその家での日々を過ごします。
主人公であるマイルズ・ヘラーは、若かりし頃に犯してしまった罪への贖罪の気持ちから、当時通っていた名門大学も中退し、両親とも連絡を断ち、故郷であるニューヨークも離れ、自分への戒めのように孤独な生活を送ります。そんな中ある女性と恋に落ち、やがてたどり着いた空き家で送る日々を通して、本来の自分自身や過去に向き合う決意を固めるのですが……。
不法居住という生活の先に行き着く、彼らの姿は?
経済が破綻してしまった後の、否応無しに色々なものが狂ってしまった世界。それでも生きなければならない人々の内面をリアルに描く本作は、日常が日常ではなくなりつつある今、私たちの置かれている状況と、良くも悪くも重なるものがあります。嘆くだけでなく、だからこそ出来ることをきちんと見つけ先に進んでいきたい。そう気づかせてくれた一冊です。
きつねのおきゃくさま
文 あまんきみこ
絵 二俣英五郎
発 行 2017年12月(第24刷)
出版社 サンリード
涙が止まらないけど、心がほんのりあたたまる不朽の名作。
ある日きつねの前に現れたガリガリに痩せたひよこ。
ひよこを見たきつねは、ご飯を与えてたっぷり太らせてから食べてやろうとたくらみ、自分の家へ連れて帰り世話をしてあげます。そんな事とは知らないひよこは、同じく食べ物に困っていたあひるやうさぎにも、「とってもしんせつなきつねおにいちゃんのお家においでよ」と声をかけます。他人に褒められた事のないきつねはその言葉を聞いて、照れ臭く、でも嬉しくて心がぼぅっとなってしまうのです。そんなある日、ひよこたちの美味しい匂いを嗅ぎつけたおおかみが襲いにやってきます。それを知ったきつねは……。
誰かを愛する事、他人に優しくする事、誰かを褒めてあげる事、勇気を持つ事。いろんな大切な事を教えてくれる絵本。
「とっぴんぱらりの、ぷう。」というおかしな言葉で終わるこの絵本は、韻を踏んだ言葉遊びのような楽しい文章も特徴で、読み聞かせにもぴったりです。