《2020年7月21日放送》
SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した3冊の本を改めてピックアップ。
◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。
TITAN
著 者 野崎まど
発 行 2020年4月
出版社 講談社
AIが鬱病!?
AIを人間がカウンセリング!?
2205年の地球を舞台に繰り広げられるSF小説。
今から180年先の未来の地球では、進化したAIシステム「タイタン」によって、家事はもちろん人々の健康を管理するのも、さらには小説や絵画などの創作活動も全てタイタンがこなし、人々は「仕事」から解放され自由を謳歌し何不自由なく過ごしていた。
ところがある日、世界に12基あるタイタンのメイン装置のうちの一つ、北海道摩周湖近くにある「コイオス」に謎の機能不全が見つかり、能力が低下したことにより社会基盤に危機が訪れる。その原因を探るために趣味で心理学を研究していた主人公の女性が、そのAIのカウンセリングをする事になるのだが、人生ではじめて体験する「仕事」に最初は戸惑いつつも次第に働くという事のやりがいに気づきはじめ……。
人生初の「仕事」を通して、働くという事と向き合った彼女と、生まれた時から人のために働くという事を義務づけられたコイオスが、カウンセリングでの会話や体験を通して“仕事とは何か”という事をとことん話し合い、そして一つの答えを見出していく。コイオスの機能が低下してしまった原因とはなんだったのか?コイオスを、そして人々の生活を守る事はできるのか。
仕事とは何か、働くとは何なのかを改めて私たちに問う作品。
毎日の仕事に追われている人も、家事や育児など日々の生活を頑張っている人にもぜひ読んでもらいたい作品。非現実的な世界の話しに感じますが、読むと不思議と力をもらえます。
星のなまえ
著 者 高橋順子
発 行 2018年9月
出版社 白水社
小学生の頃、友達のお父さんに連れて行ってもらった飯綱山で初めて見た天の川。
高校生の頃、その後の進路を決めるきっかけとなった、北海道への家族旅行で見た満天の星空。
大学生の頃、北海道の山手にある大学からの晴れた帰り道に必ず見つけた、光り輝く一番星。
星との思い出、誰もが必ず一つは胸に抱いているのではないでしょうか。きっとそれは今も昔も同じで、今私たちが手にする事ができる文学には星を取り上げたものがたくさんあります。そんな星にまつわる神話や詩、小説をテーマに取り上げ、著者自身の思い出のエピソードと合わせて綴ったのがこのエッセイ集。
古代から現代にいたるまで、人々がどのように星を見て、何を感じ、何を祈り、そして求めてきたのかを、数々の文学を通して星という存在を読み解いていきます。
日本書紀から枕草子、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に中原中也、谷川俊太郎、サン=テグジュペリの「星の王子さま」まで。見上げた空は同じでも感じる事は様々で、その感性豊かな言葉の数々に触れると、ただでさえ神秘的な星空がさらに輝きを増すような気がします。
詩人でもある著者の美しい文章もとても心地よく、星空のように心にすぅっと入り込んできて、なんとも清々しい気持ちになるおすすめの1冊。
わたしのやま
作 フランソワ・オビノ
絵 ジェローム・ペラ
発 行 2020年2月
出版社 世界文化社
ちょっとしたからくり絵本。
同じ山に暮らす羊飼いと狼の生活を描いたこの作品は、ふつうに開くと、一人の羊飼いの人間の視点でその暮らしぶりが描かれていて、絵本をひっくり返して裏側からページをめくると狼の視点での山の暮らし方が描かれています。
描かれている内容、言葉は全く同じなのに、人間と狼というだけでその見え方は全く違います。人間は羊を食べにくる狼を恐れ、狼は銃で威嚇をする人間を恐れ、その中でお互いを意識し怯えながらもその距離を守りつつ、共存し山を愛し暮らしています。
善と悪、勝者と敗者、とかく物事はその二方向から捉えられがちですが、それだけに捉われず、公平にきちんと物事を見極める事の大切さ、そして互いを知り思い合う事の大切さを教えてくれる絵本です。