皎天舎

《2020年8月18日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


こんぱるいろ、彼方

著 者  椰月美智子
発 行  2020年5月
出版社  小学館

1945年に終結したベトナム戦争の事、当時のベトナムの事、そこに住んでいた人々の事、あなたはどれだけ知っていますか?

ベトナム戦争終結後、社会主義共和国となったベトナムでは、敗戦した南ベトナム側の政府をはじめその家族、また少しでも思想的に疑いのある者は、再教育と称して収容所に送られ何年も戻らなかったといいます。そんな迫害的行為から逃れるため、難民となって船に乗り国外へ逃げ出した人々はボートピープルと呼ばれ、アメリカ、オーストラリア、カナダ、日本など世界各国に渡ったそうです。 

そんなボートピープルとして日本にやってきた一つの家族の物語。

夫と子どもと4人で暮らす真依子。じつは真依子は5歳の頃ボートピープルとしてベトナムから日本へやってきたのですが、その事を子供達に伝えられずにいました。そんな中、大学生の娘である奈月が偶然にもベトナム旅行に行くと言い出した事をきっかけに、初めて自分の出自を告白します。当然実の母親がベトナム人だったいう事、自分に日本とベトナムの血が入っているという事、今まで母親がその事を隠していた事など様々な現実を突きつけられた奈月は戸惑い、複雑な日々を過ごします。が、それと同時に自分のルーツであるベトナムの事、そこで繰り広げられた惨事についてもっと知りたいと強く思いはじめます。そして訪れたベトナム旅行で、綺麗な海や陽気な人々の背後にある、戦争の爪痕が残る地を目の当たりにし……。
物語は真依子と奈月、そしてベトナムで生まれ育ち、3人の子供たちを連れて命からがら逃げてきた真依子の母である春恵、この3世代に渡る女性たちを軸に進んで行く中で、戦争の厳しさ、ベトナムの歴史、ボートピープルの過酷な体験、そしてそれでも隣りにいる“家族”の大切さを伝えてくれます。

もっとベトナム戦争の事を知りたい、知らなくてはと感じた1冊。
ちなみに“こんぱるいろ”とは金春色と書くそうで、私たちに馴染みの深いターコイズブルーの和名だそうです。作中にはベトナムの海の色に似ているという事で登場するのですが、綺麗な金春色を背景にベトナムの女性が描かれているこの本の装丁は、見ているだけでその青に吸い込まれてしまいそうなほど素敵です。ぜひ本屋さんでこの美しい装丁の本を探してみてください。


どうぶつ会議

 作   エーリヒ・ケストナー
 絵   ワルター・トリヤー
 訳   光吉夏弥
発 行  1954年12月
出版社  岩波書店

まさにタイトル通り、動物が会議を開きます。
議題は「子どものために」。

第二次世界大戦を経た人間たちは、それでもまだつまらない人種差別や争い、そして名目だけの会議にあけくれる毎日。反省するそぶりは見せても根本的な事が何も変わらない人間に対し、『これでは人間の子供たちがかわいそうだ!』と怒りを爆発させた動物たちが一斉奮起します。
人間に解らせるために動物だけの会議を開こうと考えたゾウのオスカーは、世界各国の全ての動物に対して代表者を選び動物会館に来るよう伝えます。そうして開かれた会議で、「子供たちの未来のために、戦争や貧困、革命が二度と起こらないためにはどうすれば良いか?」と考えた動物たちは人間に対しいくつかの要望を出すのですが、どれもこれも人間たちにうまくやり込められてしまいます。そして動物たちは最後のとんでもない手段に出るのですが……。

動物たちの想い・願いは人間たちに届くのか。

第二次世界大戦後の1954年に出版されたこの絵本。動物の視点から人間があまりにも滑稽に描かれていたり、ちょっと過激な動物たちの思考ややり方に対し、今読むと捉え方が難しい部分も若干あるのですが、”平和”や”子供の未来”といった「本当に大切なものは何か」という根本の部分をしっかりと伝えてくれる作品です。

著者であるケストナーはナチスによって執筆を禁じられ、「好ましくない作家」としてゲシュタポに二度逮捕された事もあり、一時出版ができない事もあったそうです。第二次世界大戦のナチス支配下のドイツを生き抜いた著者の書く文章は、心にぐっと響きます。

文量も多くちょっと難しいテーマの絵本ですが、描かれている動物の描写や台詞にはジョークやユーモアがふんだんに盛り込まれているので、子供から大人までぜひ楽しみながら読んでください。しかもみんな大好きミッキーマウスやゾウのババールまで登場しちゃうので探してみてね。