皎天舎

《2021年1月19日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


友だち

著 者  シーグリッド・ヌーネス
発 行  2020年1月
出版社  新潮社

フィクション?ノンフィクション?小説?エッセイ?そんな不思議な読後感に包まれる全米図書賞受賞作品。

大切な男友達を自殺という形で失ってしまった小説家の女性。彼女はその友達が飼っていた「アポロ」と名付けられた老犬を引き取る事に。1人暮らしの彼女が住んでいたのは犬を飼う事が禁止されているアパート。しかも体重80キロもあるグレートデンというあまりにも大きすぎるアポロとの同居生活は困難を極めつつも、大切な人を失ったという同じ喪失感を抱えた1人と1匹はゆっくりと、でも確かに心を通わせ、いつしか大切な友だちへと変化していき……。

亡くなった友達を思い出すかのように語られる数々のエピソードはまるで彼女自身の回顧録?日記?のようでもあり、同じく小説家でもあった男友達との関係や彼の3人の妻とのやりとり、人生観、価値観、人と犬の付き合い方など、止めどなく語られ続けます。彼女が見た映画や本についても描かれ、ヘミングウェイやフロイト、フラナリー・オコナーなど様々な文学者の名前も登場し、彼らの文献を引用しながら語られるエピソードはどれも知的で、同時にそれら作品への好奇心もわいてきます。

はっきりと語られているわけではないのに、エピソードの節々から感じる、彼女と彼との関係や、小説家としての葛藤、独りでいる事の寂しさや老いる事への恐怖、そして犬の存在によって生きる意味を見出していく様子は、まるで著者自身の事を描いているのではと感じてしまうほど、読み手の心にリアルに響いてきます。最後、想像もしなかった事実が判明し、あぁ、やっぱフィクションだったんだよね……となぜかホッとした気持ちになりつつ、この物語の最後を迎えました

読了後、すぐにもう一度読み返し、再びこの本の世界観に触れたいと思った一冊。


ゆき

作・絵  ユリ・シュルビッツ
 訳   さくまゆみこ
発 行  1998年11月
出版社  あすなろ書房

冬になると読みたくなる、この季節オススメの定番絵本。
空も屋根もどんより灰色の街なかに舞い降りてきた、ひとひらの雪。

大人たちは皆、「こんな雪すぐに止むに決まってる」と冷めた顔で空を見上げます。そんな中、家の中からその雪を見ていた1人の男の子と一匹の犬は、ウキウキした顔でその空を見つめ、そして雪降る街へと駆け出します。

どんどんと降ってくる雪で、灰色だった街が真っ白な雪の白銀に輝き始め……。

どこか冷めた大人たちや描かれている街の陰鬱でダークな雰囲気とは反対に、子供と犬のとても明るい無邪気な表情が印象的で、読んでいる私たちを雪独特の幻想世界へと連れて行ってくれます。
シンプルな絵本ですが、降り始めた雪に心躍らせる子供の姿にほっこり癒され、そして雪が降るとなぜか胸が弾んで用も無いのに外へ出かけていた自分自身を思い出し、なんとも懐かしい気持ちになる絵本です。