《2021年6月15日放送》
SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第３火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した２冊の本を改めてピックアップ。
◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。
羊は安らかに草を食み
著 者 宇佐美まこと
発 行 2021年1月
出版社 祥伝社
俳句教室で知り合った86歳の益恵、80歳のアイ、77歳の富士子は、20年以上に渡って親交を深めていたが、最近では益恵の認知症が進んだ事で意思の疎通も難しくなってきていた。そんなある日、益恵の夫である三千男に呼び出されたアイと富士子はある事を頼まれる。それは老老介護の限界で施設に入れる事にした益恵を連れて、3人で旅行をして欲しいというものだった。満州からの引揚民の益恵は当時の事を多くは語らず、でも不安や恐怖といった心の「つかえ」があると近くで見て感じていた三千男は、そのつかえを取り除いて安らかな気持ちでこれからの人生を過ごして欲しい、という願いからくるものだった。
そうして益恵の人生を辿る旅に出る事となった3人は、益恵が前の夫と過ごした滋賀県大津市、愛媛県松山市、そして満州から引き揚げてきた直後に暮らしていた長崎県の離島へと足を進める。その各地で益恵と関わりのあった人々から話しを聞いていくうちに、これまで益恵があまり話してこなかった満州での出来事に触れる事となる。
敗戦直後、満州で暮らしていた11歳の益恵は、開拓団と共にソ連軍の侵攻から逃れるため南下する。飢餓、極寒、暴行、略奪が横行し、益恵たち一団も集団自決を図るのだが、奇しくも一人生き残ってしまった益恵。なぜ自分一人が生き残ったのか。生きる意味を見失いながらも益恵は日本に帰れる日を信じて前に進む決意をする。それは想像を遥かに超えた悲惨なもので、わずか11歳の子供が経験するにはあまりに過酷な日々の始まりだった。その益恵の唯一の心の頼りは逃げる中で出会った友だち佳代の存在。お互い孤児である2人がそれこそ辛い時も苦しい時もまさに手を取り合って支え合って生きていく姿が描かれる。
物語は過去を辿るこの3人の老女の旅行記を描いた現在と、辛い現実に翻弄されながらも未来への希望を忘れずに生きた70年前の２人の少女を描いた過去が交互に描かれる。 その2つの物語が交差した長崎の離島を訪れた時、益恵が生涯を通して守り抜いてきたある秘密を知る事となる。それはあまりにも衝撃的で、益恵にとって辛く苦しい決断の末の秘密だった。そしてその秘密を知ったアイと富士子は……。
家族の悩み、病気の問題などそれぞれ問題や悩みを抱えている老女たちですが、益恵の心の奥深くに秘めた感情に触れたことで、前を向いて生きて行きたいと強くなっていく姿がとても印象的で、読んでいる私たちに生きる力を与えてくれます。物語終盤、離島にある教会のパイプオルガンで奏でられているバッハの「羊は安らかに草を食み」を聴きながら、肩を並べて語り合う老女たちの姿は、それまでの苦しみから解き放たれたような清々しさに溢れていて、今思い出しても涙が溢れてきます。
益恵、アイ、富士子、そして佳代のこれから先の人生が、どうか穏やかで安らかな幸せに包まれますように。
にくのくに
作 はらぺこめがね
発 行 2020年2月
出版社 教育画劇
物語の舞台は、まさにタイトル通り「にくのくに」。
今日はにくのくにの王様を決める大事な日。我こそは我こそはと手を挙げたのはどれもこれも強者だらけ。
ますはローストビーフ王。見開きいっぱいに描かれたローストビーフに、かけるソースはもちろんグレービーソース！口いっぱいに頬張りたーい！ いやいや、負けじと登場したのはからあげ王。こんがり揚がったたっくさんのから揚げにレモンをかけてジュワッとジューシー、こりゃたまらん！ 続いてハンバーグ王にトンカツ王、ハム王にソーセージ王、と次々と美味しそうな肉料理たちが現れ、どの王様も自分が王に相応しいと言って譲りません。しかし最後にスキヤキ王が表れると……？？？
さぁ！一体王の座はどの手に渡るのか！？
よだれが止まらないリアルな絵と、クスっと笑ってしまうオチがたまらない一冊。
今夜は肉料理で決まりです！