《2021年8月30日放送》
SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。
※今月は番組編成の都合により放送日が変更になっています。
◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。
蜂の物語
著 者 ラリーン・ポール
訳 川野靖子
発 行 2021年6月
出版社 早川書房
他者と話すことばかりか、言葉すら話せないはずの衛生蜂。しかし彼女だけは違っていた。言葉を話し、女王蜂以外に許されないはずの母性を手にした蜂が見ていた世界とは……。
舞台となるのは、ある果樹園に設置された蜜蜂の巣箱。そこで生まれたフローラ717(フローラ=族名・717=番号)という名前を持つ雌蜂が主人公。女王蜂以外の雌蜂の多くがサルビア族やアザミ族、オオバコ族といった花の名前をとった族名に属しているのに対し、フローラ族だけは花の名を持っていなかった。なぜなら、フローラ族は働き蜂の中でも最も最下層に位置する衛生蜂として生を持った者たちだからだ。衛生蜂とは、他者の排泄物の片付けや、死体の処理など、巣内の清掃を義務付けられた者たちで、言葉も話せなければ、女王蜂にお目にかかる事はもちろん、目上の者たちと意思疎通する事さえ許されない種族だった。ところがフローラ717は他のフローラ族とは異なり、大柄で浅黒くて毛深く不恰好、そして言葉を話す事ができたのだ。女王蜂を頂点に、雄蜂、働き蜂(雌蜂)と完全なる役割を持って構成されている蜜蜂の世界では、調和と秩序が何よりも重んじられており、そんな中、他とは異なっていたフローラ717は危険分子とみなされ監視蜂に殺せれかける。しかし言葉を話せた事で、次第に他の仲間からも一目置かれるようになり、持ち前の力と勇敢さと賢さで衛生蜂としては前例がないほどの出世をしていくフローラ717。育児室で子供たちの世話をする育児蜂としての任務をこなしたり、巣箱の外へ出て花蜜を採ってくる外役蜂の役割を担ったり、時にはスズメバチやクモと壮絶な戦いを繰り広げたりと、思いもよらない蜂の一生を生きることとなる。そしてついに手に入れた母性。それは女王にしか許されていないものだった……!
あくまでもフィクションであり人間風に描写されている事は分かっていても、厳格な教えや洗脳での意識コントロール、種族格差に基づく労働体制や権力争い・陰謀など、あの小さな巣箱の中ではもしかしたらこんな事が起こっているのかも!?と思うと、蜂はもとより虫が苦手な私でもちょっとした愛おしさと不思議な高揚感があり、この物語の世界にグイグイと引き込まれていきます。それと同時に、私たち人間が生きているこの世界での、人種による格差や性的問題などの社会問題を彷彿させるディストピア社会の要素も含まれていて、でもそのことを嘆いているのではなく、自分の力で這い上がっていくことの大切さや必要性を感じ、蜂の世界の出来事を描いているとはいえ、読んでいる最中はどこか他人事ではない不思議で奇妙な感覚に包まれます。
著者の想像力に圧倒させられる一冊、おすすめです。
わたしのそばできいていて
作 リサ・パップ
絵 菊田まりこ
発 行 2016年10月
出版社 WAVE出版
字を読むのが苦手な女の子、マディ。
国語の時間、声に出して本を読むと、つっかえてしまったり間違えてしまいます。そしてその度に聞こえてくるクラスメイトのクスクス笑う声。
先生からもらえるシールは2種類。「よくできました」は星のシールで「もっとがんばりましょう」はハートのシール。星のシールが欲しくてマディは頑張りますが、どんなに頑張ってももらえるのはハートのシールばかり。どんどん読むのが嫌いになって、頑張ることもできなくなってきて……。
そんなある日お母さんに連れられて行った図書館。その図書館の奥の一室に入ると、そこにはたくさんのわんちゃんと子供達の姿が!その中の一際大きな犬のボニーに本を読んでほしいと図書館の人にお願いされたマディは、最初は戸惑いながらもなんとか本を読んであげます。ボニーは、マディがつっかえても間違えても気にせず、言葉が出てくるのをじっと静かに待っていてくれました。そんなボニーと読み聞かせの時間を過ごしていくうちに、マディにも少しづつ変化をが訪れて……。マディは念願の星のシールがもらえるでしょうか!?
コンプレックスを抱いた女の子と、それに優しく寄り添うボニーの姿に心が癒される絵本。実際に海外ではセラピーを目的として犬を飼っている図書館があり、子供達が犬と触れ合いながら本を読むことの楽しさを実感しながら豊かな時間を過ごしているそうです。最近では日本でもセラピー犬として活躍する犬の話題を耳にするようになってきましたが、動物が人間に与えてくれるものの大きさや偉大さ、そして大切さを改めて感じた一冊です。
2冊出版されている続編ではシェルターに預けられたペットたちの問題や、老人介護においての犬の役割などの社会問題にマディは直面します。自分に出来ることは何なのかを考え行動し、成長する姿が描かれ、その姿に私たち大人でも学ぶ事も多いはず。もちろんボニーをはじめ、かわいい動物も登場するので、お子さへの読み聞かせにもおすすめです、そちらもぜひ合わせて手に取ってみてください。