皎天舎

《2024年7月19日放送》

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。

SBCラジオ 丸山隆之の「あさまる」の中で毎月第3金曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。


spring

 

著 者  恩田 陸
発 行  2024年4月
出版社  筑摩書房

  「蜜蜂と遠雷」で直木賞と本屋大賞をW受賞した恩田陸の新作をお持ちしました。この時は音楽コンクールが舞台でしたが、今回、題材となった舞台はバレエです。構想・執筆に10年を要したというこの作品ですが、筑摩書房のPR誌「ちくま」に3年以上にわたって連載されました。

 主人公は、長野出身のバレエダンサー、萬春(よろず・はる)。恵まれた容姿と身体能力を持ち、自然体のままに天才ダンサー、そして振付師へと成長していきます。名前の「春」からタイトルが「spring」になるのですが、英語のspringには「跳ねる」「芽吹く」「湧き出す」「春になる」

といった意味合いもありますよね。この四つの言葉が章の題となって、視点の異なる4つの物語で構成されています。4つのストーリーを簡単に紹介すると、

 まず、第一章では、ハルと同じバレエ学校に留学した深津純が語り部。才能あふれるバレエダンサーから見たハルの特異な才能と魅力的な人物像を描きます。

 第二章は、ハルの才能に文化・教養面で力となった伯父、稔の視点。幼少期から才能が開花するその瞬間瞬間を思い出し記録します。

 第三章、ハルの友人・七瀬の視点、もともとダンサーだった七瀬はのちに作曲家に転身。ハルの新作バレエや振り付けを音楽面からサポートするコンビへと共に成長を遂げます。音楽に限らず芸術面からハルの創造性を支え、次々に新作を発表していきます。

 最後の第四章は、ハル自身が語ります。ハルの目に映る世界にカタチを持たせるためのダンス、ストイックなまでのバレエに対する情熱、そして、人間ハルとしての感情と恋愛模様。全てをバレエに捧げた稀代のバレエダンサー・ハルの生き方自体が、肉体の躍動となり、振り付けとなり、バレエその物へと集約されていきます。

 恩田陸先生の真骨頂でもある青春群像劇でありながら、人生の師弟関係におけるかけがえのない信頼を描き、個性あふれる優れたダンサーたちとの切磋琢磨をスパイスに、バレエとは何か、踊ることとは何か、という問いに向き合っているように思います。バレエそのものを描きたかったという著者ですが、ピアノ、そしてバレエと表現者を題材に創作していて、私たちにとって一見距離を感じる、「芸術へ触れたい」との潜在的な意識に上質なエンタメで応えています。

 こちら電子書籍もありますが、紙の本ではページの隅に描かれたシルエットのダンサーが踊るパラパラ漫画が仕込まれています。単行本の初版限定特典として二次元バーコードから読める、「書き下ろし番外編」もあり、本としての遊び心も楽しめます。

 長野市にはバレエ教室もたくさんありますし、書肆 朝陽館からほど近くにあるバレエ学園からは世界で活躍するダンサーも輩出されています。主人公が長野出身という設定ですのでそうしたバックグランドと重ねて読むのも面白いです。

空気を変える

 文   デビー・リヴィ
 絵   アレックス・ボーズマ
発 行  2024年7月
出版社  あすなろ書房

 さて、みなさん。長野の夏もすっかり暑くなった印象はありませんか?
数年前までは、エアコンが無かった家も多かったのではないでしょうか。
そうした夏の気温上昇、気候変動について考える絵本を紹介します。

地球が抱える環境問題の一つ、地球温暖化。

空気中の二酸化炭素が増えすぎたことにより、地球を覆う大気に熱が閉じ込められる現象ですが、これによって必要以上に気温が上昇し、気候変動が生じて生き物に悪影響を与えています。

この絵本では、自然による二酸化炭素削減のメカニズムを紹介し、さらに人間の創意工夫で地球環境を守る方法を具体的に解説しています。化石燃料の利用による二酸化炭素の放出や、コンブやマングローブ、土などが吸収する過程を絵でわかりやすく伝えます。

地球で生きつづけるために、今わたしたちができること。
夏休みにお子さんと一緒に考えてみてはいかがでしょうか。