皎天舎

《2024年2月16日放送》

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3金曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。


楽園

著 者  アブドゥルラザク・グルナ
発 行  2024年1月
出版社  白水社

 

 2021年にノーベル文学賞を受賞した、アブドゥルラザク・グルナですが、これまで日本語訳がなく読むことができませんでした。ようやく今年になって代表作の「パラダイス」が邦訳されましたので早速ご紹介したいと思います。

 イギリスで執筆を続けるグルナですが、出身は現在のタンザニア領ザンジバルです。1968年の革命の混乱期にイギリスに渡っています。

 
 この物語の舞台は20世紀初頭、現在のタンザニアの架空の町なんですが、アフリカを舞台にした小説ってあまり馴染みがないですよね。それにアフリカ人の作家というのもあまり聞かないのではないでしょうか。東アフリカ沿岸地域において内陸部の開拓、ヨーロッパ人の侵入など歴史的な転換期を生きるスワヒリ人の少年が主人公です。

 主人公ユスフの12歳から18歳までの成長の過程をめぐりますが、宿を経営するユスフの父親が借金に行き詰まり、裕福な商人アズィズに借金の形に息子を差し出します。ユスフは使用人(奴隷)としてアズィズの元で働きます。アズィズは内陸へ物資を運んで売り捌く隊商(キャラバン)を組んで旅をし莫大な富を得ているのですが、成長したユスフもこの旅に加わります。

 その旅の中で互いに争うアラブ人、インド人、アフリカ人、ヨーロッパ人のいくつもの勢力を目撃し、さまざまな経験を積んだユスフは次第に自らの隷属状態について疑問を抱きはじめていきます。

 物語自体は大陸的雄大さを持ち合わせていて、宗教的価値観や文化の相違はもちろん、文明化された社会と未開の地にある野蛮さがあわく混ざり合った独特な色を成しています。それが重層的に重なり厚みを増した小説になっています。日本から遠いこの地ですが、イスラム文化が根付いていたり、インド人が多く入り込んでいることなども意外に感じるながら私は読んでいました。

 アフリカ人から語られる、イスラムやアラブの文化や伝統がとても興味深く感じられました。それは、さまざまな匂いや色、音、そして想像して見渡す風景がアフリカのスケールと複雑さを伴って届くからなのかもしれません。

奴隷制の影もひきづりつつ、激動の時代を生きる人びとの大陸的で力強い物語です。
東アフリカの歴史の光と影が映し出されているようにも思います。

4作目となる本書『楽園』は1994年に刊行され、ブッカー賞およびウィットブレッド賞の最終候補になっています。2021年にスウェーデン・アカデミーがノーベル文学賞を贈った際にはこのようなコメントを残しています。

「植民地主義のもたらした影響と、異なる文化と大陸の狭間に置かれた難民が辿った運命への、妥協のない、情熱のこもった洞察に対して、確かでかつ慈愛のこもった形でそれをおこなった」

今後、ほかの小説も翻訳が進められるとのことです。私は個人的にはそうした作品をこれから読めると思うと楽しみですし、早く手にしたいなと願っています。今日はアフリカ人作家によるアフリカ文学をご紹介しました。


なんていいひ

 文   リチャード・ジャクソン
 絵   スージー・リー
 訳   東直子
発 行  2024年2月
出版社  小学館

どんよりとした曇り空、雨が降る中で気持ちは滅入りそうですが、
子どもたちは元気いっぱいに踊ったり歌を歌ったりと大はしゃぎ。
傘を差して、外をたのしそうにお散歩します。

すると、だんだん雨も止み、子どもたちのまわりがスージー・ブルーに包まれていきます。
どんなときでも生命力があふれる、子どもたちの姿が気持ちいい1冊。

絵を手がけたのは、国際アンデルセン賞・画家賞を受賞したスージー・リーです。文章を手がけるリチャード・ジャクソンは、編集者として活躍し、担当作が数々賞を受賞しています。二人の黄金タッグが手がける初の絵本として、アジアをはじめヨーロッパ、アメリカで高く評価されている作品です。

子どもの生命力あふれる「うつくしい一日」を描いた芸術性の高い一冊です。