《2024年1月19日放送》
◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。
SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3金曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。
水車小屋のネネ
著 者 津村記久子
発 行 2023年3月
出版社 毎日新聞出版
芥川賞作家、津村記久子さんの長編小説をご紹介します。
短大の入学金を母親が婚約者のために使ってしまい進学を諦めざる得なかった18歳の姉と、その婚約者に夜間に締め出されたりしている8歳の妹。姉は家を出て独立することに決め、たどり着いた山あいの町の蕎麦屋で住居と職を得ます。そこに妹もついてきて、18歳の理佐と8歳の律、10歳離れた姉妹二人の新たな生活が始まります。
蕎麦屋でつかう蕎麦粉を挽くのは店の裏にある水車小屋の石臼で、その石臼の番をしているのはしゃべる鳥、ヨウムのネネでした。ヨウムとはオウムの仲間で言葉を覚え、モノマネも得意。5歳児程度の知能を持つと言われていて、人ともコミュニケーションを取ることができます。そして寿命は50年ほど。理佐の仕事は蕎麦屋の接客と蕎麦粉挽き、そしてネネの世話若干でした。ネネは石臼の上にある、じょうごの蕎麦の実が減ると「からっぽ!」と言って教えてくれます。
1981年、律が8歳の時に始まり、10年刻みで章立てされる40年間の物語です。最後のエピローグはコロナ禍の2021年です。2011年の章では東日本大震災にも触れています。理佐と律とネネの関係性を軸にさまざまな人が関わり、変転してゆくそれぞれの人生が描かれます。
二人の姉妹を気遣う蕎麦屋の店主夫婦や画家の杉子さん、律の担任の藤沢先生や町の人々、その良心に支えられてひたむきに生きる姿は、決して恵まれたとは言えない境遇にもかかわらず輝いて読者に響きます。そして、ネネのコミカルなモノマネや愛らしい言葉のやりとりは、深刻な状況をも羽毛のように軽やかに和ませてくれます。
時間がたち二人が大人になった頃、ある事件によって音楽家としての将来を失った聡(さとる)や母親との関係から進学を諦めようとする中学生の研司が登場し、二人の姉妹は助けられる側から、応援する側へと変わっていきます。
「ここにいる人たちの良心の集合こそが自分なのだ」
そう語る律の人生は、誰かに助けられ親切にされた人なら、誰かの役に立ちたいと願う、良心のバトンで成り立っています。この小説は、助け合い支え合う人々が織りなす希望に満ちた物語です。
本文には地名が一切出てこないのですが、舞台になっている鉄道の沿線の景色をイメージしながら読んでみてください。僕も途中でもしや!と思ったのですが、津村さんのインタビューを読むとどうやら長野にも縁があるようです。
あと、ニルバーナやレッチリなど時代を思い起こさせるバンドや音楽、そして映画ががたくさん出てきます。僕は律の歳に近いのですが、いま50歳くらいの人は自分が生きた半生と照らし合わせて読むとより面白いかもしれません。
まだ一月ですが、今年読んだ小説で5本の指に入ることが決定したと言っても過言ではありません。ぜひみなさんもこの希望に触れてみてください。
ガウディさんとドラゴンの街
作 パウ・エストラダ
訳 宇野和美
発 行 2023年12月
出版社 教育評論社
スペイン・バルセロナといえば多くの人が「サグラダ・ファミリア」を思い浮かべるのではないでしょうか。そのほかにも「グエル公園」や「カサ・ミラ」といった建築物を挙げれば、それらの設計者がアントニ・ガウディであることをみなさんもご存知でしょう。
そのガウディが主人公になった絵本をお持ちしました。
ある寒い日、朝早くガウディは歩いて出掛けていきます。グエル公園のドラゴンに挨拶し街へ出ると、カサ・ミラの住人の話を聞き、サグラダ・ファミリアの仕事場へと赴きます。こうしてガウディの1日を描いた絵本ですが、ところどころに彼が建てた建築物が登場します。ガウディの偉業だけでなく、どんな人柄だったのかも知ることができて、バルセロナに行きたいと思う人もいるのではないでしょうか。2年間を費やしたという、詳細で緻密な絵は色彩が豊かで美しく、ガウディファンなら目が離せない絵本です。