皎天舎

《2023年10月20日放送》

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3金曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。


本売る日々

著 者  青山文平
発 行  2023年3月
出版社  文藝春秋

 

今日は時代小説をご紹介します。「つまをめとらば」で直木賞を受賞した青山文平の作品です。

 江戸時代、文政の頃を舞台にした本屋が主人公の小説です。江戸時代の本売りといえば、ツタヤさんの名の由来になった蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)や須原屋茂兵衛(すはらやもへえ)などが知られていますが、当時の本屋は版元、つまり出版社を兼ねることも多く、出版も行う大きな店では「書林」と名乗っていました。「物之本(もののほん)」と呼ばれる学術書を扱い、城下で松月堂(しょうげつどう)という本屋を営む平助が主人公です。兵助は月に一度、行商に出て村々を渡り、その土地の有力者に本を売り歩くといったこともしています。本屋を指す言葉には書房、書店、書肆、書林とあり、平助は「書肆風月堂」を屋号にあげていますが、ゆくゆくは版元となり開板し「書林」を名乗りたいと夢見ています。

 余談ですが、私たちの書店、「書肆 朝陽館」の書肆も同じで、昔から本屋が名乗っていたものです。明治から続く朝陽館も当時はこのように出版も行なっていました。これは、流通が未発達なため、製品である「本」として運ぶよりも版木を持ってきて自分たちで印刷・製本を行った方が効率が良かったからです。都市部である程度作られた本の版木が地方へと移り、そこで印刷された後、さらに遠方へと渡っていくことで、文化や教養が全国へと広められていきました。そんな当店の黎明期の様子が見えてくるのも、個人的にこの小説が面白いところです。

さて、物語は3編で構成されています。

一つ目は、小曽根村(こぞねむら)の名主(なぬし)・惣兵衛(そおべえ)を訪ねると、後添え(のちぞえ)に孫ほどの年齢の少女をもらっていました。何か見せてやってほしいと頼まれて貴重な本を見せたのですが、そのうちの2冊がなくなってしまいます。そこで起こった事件とその顚末を描く、本書のタイトルにもなっている「本売る日々」 

 そして二つ目が、660冊からなる一大叢書、「群書類従(ぐんしょるいじゅう)」をモチーフとして登場させながら、歌人として積年の怨みを晴らす女にまつわる幻想的な話、「鬼に喰われた女(ひと)」

最後に、惣兵衛(そおべえ)が信頼する村医者・佐野にまつわる、書物によってつながれる、人と人との縁を描く「初めての開板」

 全ての物語にさまざまな本や書物が登場し関わってきます。本屋を語り部にすることで、都市と村とのつながりや豊かさ、文化の広がりを生き生きと伝えています。江戸時代の農村は貧しさが印象にあるかもしれませんが、食物を生産する農村は富の源泉だったと著者は述べています。そうした村の名主(なぬし)が各地に点在したことで、本を集め知識の蓄積地が満遍なく網のように広がったとのことです。

 物語を楽しむ事はもちろん、当時の暮らしぶりや風習について知ることもできます。日本人として知っておきたい知識も随所に表れていて、改めて勉強にもなります。

時代小説は色々な楽しみ方があるように思います、たまに読んでみると思いがけない発見がありますよ。


ねぐせのしくみ

著 者  ヨシタケシンスケ
発 行  2020年7月
出版社  ブロンズ新社

みんな大好きヨシタケシンスケ。

イラストレーターや造形作家として活躍してきた彼ですが、今では大人気絵本作家になりました。「あるかしら書店」や「おしっこちょっぴりもれたろう」「りんごかもしれない」などで知られ、ユーモラスなイラストと核心をつくようなメッセージでファンが増えています。

「ねぐせのしくみ」は、お子さんが眠りについてから、朝起きるまで、その間に何が起こって、爆発的な寝癖ができるのかを解説します。

予想を遥かに超えた、アグレッシブな行動は、子どもの夢の中を覗くかのようで、私たち大人も楽しく読めます。