皎天舎

《2023年8月18日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3金曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


あの図書館の女たち

著 者  ジャネット・スケスリン・チャールズ
発 行  2022年4月
出版社  東京創元社

 

毎年8月になると、戦争に関連した本を手にするようにしています。今年はナチス占領下のパリを舞台にした小説を読みました。戦争が大きなテーマになるのですが、今回は愛読家、本好きにとって印象に残る一冊となっています。厳しい時代の中にあっても、書物の力を信じて行動する人々の姿や覚悟が、勇気や希望を与えてくれ、友情が後悔を溶かして新たな自分に生まれ変わらせてくれる、そんな感動の一冊です。

1939年、主人公のオディールは、パリに暮らす、本と図書館を愛する二十歳の女性。女性の社会進出がまだままならない時代で、家族にも反対されつつ、パリにあるアメリカ図書館で司書として働き始めます。しかし、当時は第二次世界大戦が始まろういう不穏な時代にあって、家族や周囲の人々との関わり方、図書館の在り方に変化の兆しが次第に現れていきます。

「あの図書館の彼女たち」というタイトル。あの図書館とは、

パリにある「アメリカ図書館」のことです。それは現在も実在する図書館で、第一次世界大戦時に戦地のアメリカ兵に届けられた多数の本を基に創設された主に英語書籍を収蔵する図書館です。「戦争という暗闇のあとに、本という光がある」この言葉を理念に上げているそうです。著者のジャネット・スケスリン・チャールズは、この図書館で2010年からこの図書館で働いたことがあり、第二次世界大戦当時この図書館で実際に行われたエピソードを軸に、実在した人物たちの勇気と献身、女性たちの世代を超えた友情を描きます。

第二次世界大戦が始まり、各国の兵士に向けて本を送り続けるアメリカ図書館のスタッフ。やがて、ナチス・ドイツによるフランス占領が起こり、ドイツにとっての敵性国民(敵対する国の国民)である英語圏の利用者やスタッフが多くいたことから、アメリカ図書館は緊張する日々を迎えます。特にユダヤ人の利用が禁止されるなかで、スタッフたちは手分けして登録者であるユダヤ人たちに本を届け続けます。そして国外に脱出しスタッフが去っていく中でも図書館を開け続けました。

そういった史実をもとにこの物語は描かれていますが、実在する作家や小説、雑誌が数多く登場します。そして、ここぞというところで、それらの小説からの引用があり、本が好きで止まない読者を唸らせます。本の存在や図書館という場所が、いかに人々にとって拠り所となりうるか、いかに人々を慰め、奮い立たせるのか。そうした当時のスタッフたちの、そして作者の思いを強く感じます。

そして、この物語にはもう一つのパートがあります。1983年から始まる、舞台を数十年後のアメリカに移した、少女リリーの視点で描かれた、オディールとの交流の物語が差し込まれます。その少女との交流の中で明かされる、かつてオディールに起こった出来事とその秘密。

 全体を通して振り返ると、ます、本を読む喜び、本を愛して止まない人々との交流が輝く光のように楽しく始まり、次第に戦争が暗い影を落として、苦しみと不安、それに抵抗する人々の勇敢な振る舞いを目撃します。そして、疑心暗鬼と憎しみや嫉妬による裏切りと取り返しのつかないその結果があり、時代を超えた友情が全てを最後に救ってくれる。

読書で体験できる素晴らしさが全て込められている。そう言ったら言い過ぎでしょうか。

本当に全ての愛読家に読んでほしい一冊です。


海のアトリエ

著 者  堀川理万子
発 行  2021年5月
出版社  偕成社

おばあちゃんの部屋に飾ってある一枚の女の子の絵。「この子はだれ?」て聞いてみたら、「この子は、あたしよ」って教えてくれた。

おばあちゃんが、学校でいろいろあって引きこもっていた、あたしくらいの歳の頃。海のそばの家に、一人で住んで、絵を描いて暮らしていた、お母さんの友達が遊びにおいでって誘ってくれた。そうして、おばあちゃんが夏休みの一週間を過ごした、海のそばのアトリエでの生活を話してくれます。

絵描きさんは子ども扱いせずに、大人と同じように接してくれました。大人っぽい食事をし、朝の体操や海辺の散歩を一緒にし、夜には読書をする。一緒に美術館に行きました。絵描きさんの仕事を興味深く見ていると、自由に絵を描かせてくれました。二人はお互いに肖像画を描き、壁に貼り、料理を作ってテーブルを飾り付けパーティーをしました。

そうしておばあちゃんの胸の残った大切な夏の記憶は、おばあちゃんから孫へと伝えらます。

お子さんが抱いた興味の蕾を開花させる、創造の感受性を育ませてくれる絵本です。どこか懐かしさもあるのびのびとしたタッチの優しい絵が夏休みにぴったり。きっと大人になってからも、夏が来るたびに思い出す絵本だと思います。