皎天舎

《2023年6月16日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3金曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


狼の幸せ

著 者  パオロ・コニェッティ
発 行  2023年4月
出版社  早川書房

 

今日ご紹介するのはイタリア文学、そして山岳小説の「狼の幸せ」です。著者のパオロ・コニェッティは前作の「帰れない山」でイタリアを代表する文学賞・ストレーガ賞を受賞しています。映画化され、現在日本では公開中の話題作となっています。(ちょうどいま、長野市では相生座で公開中)

イタリア北部のヨーロッパアルプスを舞台にしているあたり、長野は北アルプスのお膝元ですから、なんとなく身近な光景として読み進めることができるのではないかと思い手に取りました。

物語は、主人公の創作活動に行き詰まった作家・ファウストが、幼い頃から父親に連れられ慣れ親しんだ山、モンテ・ローザにミラノから戻ってきたことで展開されていきます。麓の町、フォンターナ・フレッダ唯一のレストランでコックとして働くことになりますが、その店の女主人・バベットと、住み込みで働く若い新米ウェイトレスのシルヴィア、そして、元森林警備官で冬はスキー場の圧雪車に乗る生粋の山男、サントルソ、この4人の交流を中心に36篇の短編で構成される山の小説です。

とにかく、山の情景が美しいんです。一章を読んで目を瞑ると瞼の裏にその景色が蘇るんですね。冬が始まるとスキー客が押し寄せ、春になると人が消える集落の活況と閑散とした日々の営みや集落の人々の生活ぶり、来ては去っていく山の人々とその人生を、アルプスの四季の移ろいとともに優しい文体で山を登るように一歩づつ進んでいきます。

コロナ禍でのロックダウン中に書かれたという本作、人との触れ合いが難しい日々に執筆されていたため、互いに寄りそい、触れ合う人々の優しさ・暖かさを「狼」では描きたくなったと、作者の心情を翻訳をされた飯田亮介(りょうすけ)さんは語っています。

好奇心の赴くままに自由に、常に新たな土地を目指して旅を続ける狼たちの生き方が、登場人物の生き方に重なったり影響を与えたりするところも、自由を奪われた暮らしの中から芽生えた思いなのかもしれません。

因みに、この物語には葛飾北斎の「富嶽三十六景」が登場し影響を与えていますが、短編の数が36篇であることと関連があります。三十六枚の浮世絵を鑑賞するように、それぞれの章編を一つづつ読んでも楽しめるようになっています。一度読んだああとは山の情景を楽しむように北斎の版画を鑑賞するように、何度も読み返すことができる小説です。


 はじめての絵本

著 者  磯崎園子
発 行  2023年2月
出版社  ほるぷ出版

友人に子供が産まれたので何かいい本ありますか?
3歳の子どもに贈りたい絵本、何かありますか?
字が読めるようになってきたんですが、次はどんな本がいいですか?

これは本屋をやっているとよくある質問ですが、お母さんが子どもに読んであげたい本は、ご自身が小さい時に親しんだ本であることが多いので、定番の長く読み継がれている絵本やキャラクターのものが喜ばれます。一方で新し絵本も日々誕生しています。そうした中から新しい定番が生まれるのですが、もともと膨大な数の絵本がさらに増えていき、迷ってしまいます。

どんな絵本を読んであげたら良いのか、わからない。そうした方にお薦めするのが今日の本「はじめての絵本」です。赤ちゃんから大人まで、その月齢・年齢にあった絵本、求める絵本を、そのときのお子さんの視点で解説します。

この一冊があればもう大丈夫。自信を持って安心して、お子さんに絵本を読んであげてください。