雨を読む。
傘を開くとき、気持ちはちょっと沈んで俯きがち。
せっかくだからと、本を開いて俯けば、目で追う文字が淡い景色に広がっていく。
梅雨前線の接近を告げる天気予報士の声が聞こえると、
窓の外では雨粒たちが得意気に街を濡らしだす。
そのうち、山々の輪郭がだんだんと滲んで、やがて自分の意識までもが雨に溶けていってしまいそうになる。慌てて手元のページに目を戻すと、またゆっくりと自分のかたちが浮かび上がってきて、ほっと心が落ち着く感覚を得る。本を開くというのはその世界を旅することだが、それとは対象的に自分の中へ深く潜り込む行為でもある。窓を叩く雨音の中で、本と自分との曖昧な境目を夢中になって行ったり来たりしている間に、やがて窓辺には陽が差し込み、街はきらきらと輝き始める。
それはいつもよりどこか優しく、ページをめくる手を照らす。
「書肆 朝陽館」では、梅雨前後の色彩を失った曇天に彩りを添えるべく、季節の移ろいとともに色味が変化していく「天気の棚」を作りました。「天気の棚」は、雨雲レーダーやアメダスのモザイク模様が刻々と変化していくように季節の色に合わせて、棚の本が少しづつグラデーションのように変化していきます。若葉香る新緑の5月から、梅雨の6月を経て陽射しが強まっていく7月を夏へと巡っています。
文学、絵本、詩集、エッセイ…ジャンルの垣根を越えて、天気をなぞるように移り変わっていく棚をお楽しみください。
季節や天気と連動し変化していく「天気の棚」
第二弾は、この色。
【梅雨闇】(つゆやみ)
梅雨の時期、厚い雲に覆われた暗さ。
昼でも暗く、夜は月も出ず、深い闇となる。
日本には雨を表現する言葉が数えきれないほど存在します。“雨ばかりで嫌になっちゃう!”なんて思いがちな季節ですが、素敵な雨の言葉をひとつ知っていたら、雨の日が少し楽しいものになるかもしれません。
6月は”梅雨空の鼠色と表情豊かな雨”をコンセプトに、雨の多いひと月を越え、空が夏へと明けていく様子を本棚に映していきます。風の匂いや咲いている花から季節を感じるように、本棚からも季節を受け取ってみてはいかがでしょうか。
色とりどりの傘の往来を眺めながら、日々に読点を。本とコーヒーで一息ついたころには、きっと晴れ間がのぞきます。
おや、また雨の調べが遠くから聞こえてきますね。
傘と本のご準備はよろしいですか?