皎天舎

《2023年5月19日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3金曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


しろがねの葉

著 者  千早茜
発 行  2022年9月
出版社  新潮社

 

世界遺産にも登録され、今では観光地としても人気の石見銀山を舞台にした歴史小説、「しろがねの葉」を紹介します。

戦国時代末期、凶作に悩まされた一家は夜逃げし、景気がいいと噂された銀山を目指します。しかし、道中で両親と離れ離れになった幼いウメは、日が沈む方角を目指し、ただ一人、仙ノ山と呼ばれる銀山の間歩にたどり着きます。(間歩とは鉱山に掘られた坑道のことで石見銀山には700ほどの古間歩があるようです)

ウメは伝説の山師・喜兵衛に拾われ、銀山の知識と、鉱脈の在処を教えられ、手子と呼ばれる雑用係として女だてらに間歩に出入りするようになります。はじめは暗い穴の中でも夜目が利くことで重宝されます。山で働くことに魅せられ、喜兵衛に認められたくて頑張り日々成長していきます。しかし、本来は男社会の鉱山、女性が間歩に入ることは忌み嫌われます。しだいに女性として成長していくウメは、女であることで思い描いた山師としての将来を絶たれてしまいます。

著者の千早茜さんは、旅行に訪れた石見銀山で「銀山の女は三人の夫を持つ」という言い習わしを耳にしたそうです。これは過酷な採掘現場で働く男たちの短命を表した言葉ですが、当時は30歳を迎えることが珍しいくらい男たちの生涯は短いものでした。

愛する男が自分よりも先に死ぬとわかっている世界で、女たちはなぜ生きることができるのか、そうした根源的な「生」への問いを抱くようになったとインタビューで答えています。

早死にすると分かっていても間歩に向かう男たち。止めたくても止められずに、ただ弱っていく男を看取る女たち。男として生まれ、そして、女として生まれ、それぞれが抗いながら、受け入れつつ、社会や政治に翻弄されていきます。「男が女に求めることは何か」「女が男にしてやれることは何か」そんなこと考えながら読んでいくと、ひいては「生きることは何か」へと物語の主題は突き進んでいきます。

運命に抗いつつも受け入れて人生を全うしようと熱く生きる人々の物語。最盛期は世界の銀の産出量の1/3を賄ったと言われる石見銀山。湧き上がる活気を背景に多く人が山に向かい去っていく。その中には、運命に抗いながらもさまざまな形で、人生を全うしている生き生きとした人物がたくさん登場します。受け入れるだけではない違う形の生き方。そうした対比も読者を惹きつけて離しません。

「しろがねの葉」とは銀の眠る場所に生えるといわれる銀を吸って白く輝くシダの葉のこと。表紙に描かれた漆黒に浮かぶしろがねの葉のように力強くも儚い夢物語のようなウメの人生。扉を開き読み始めたら眠れません。闇の魅力に取り憑かれてしまいます。こちらは、第168回直木賞受賞作です。


 きみだけの夜のともだち

 作   セング・ソウン・ラタナヴァン
 訳   西加奈子
発 行  2022年12月
出版社  ポプラ社

「しろがねの葉」は、闇に包まれた間歩が舞台でしたが、
夜の暗闇を怖がるお子さんは多いのではないでしょうか。
この絵本はそんなお子さんたちのために描かれました。

暗闇が怖くて夜眠れないガスパールは、夜だけのともだちがいてくれたなと思っていました。
ある夜、ガスパールの前にネズミが訪れて、いろんな部屋へガスパールを誘います。本を守るモグラ、ピアノの練習をするうさぎ、水を怖がるペンギン、洗濯機の中から出てきたパンダ、そしてキッチンでケーキを食べるブタ。みんなで遊んで、お腹いっぱい食べて、すっかり楽しんだガスパールは、もう夜を怖がらなくなりました。やがて、ぐっすりと眠りにつきます。

本作を翻訳したのは、「サラバ!」や「さくら」「i」なのどの作品で知られる作家の西加奈子さんです。「きいろいゾウ」は小説だけでなく絵本にもなっていて、小説家としてだけでなく絵本作家としても人気です。

眠る前の時間をより楽しい時間にするために、絵本の読み聞かせをしてあげたいと思います。