皎天舎

《2023年4月21日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3金曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


インディアナ、インディアナ

著 者  レアード・ハント
 訳   柴田元幸
発 行  2023年3月
出版社  トワイライライト

 

レアード・ハントの「インディアナ、インディアナ」です。こちらは新刊としてご紹介しますが、、実は日本では以前にも書籍化されています。2006年に朝日新聞社から出版され、一度絶版となりましたが、今年、東京は三軒茶屋にある書店「トワイライライト」が新たな装丁で復刊しました。

書店が復刊するくらいですから、並々ならぬ思い入れを感じますが、この小説、さまざまな書評を見てみると多くの方が「とても美しい小説」と紹介しています。著者のレアード・ハントについては、アメリカ文学の人気翻訳家・柴田元幸氏が惚れ込み、ポール・オースター氏がその才能を称賛するなど、大きな期待が持てる一冊です。

そうして読み始めてみると、どうも雲行きが怪しい。よくわからないのです。

雲行きというよりも、むしろ霧の中を手探りで進んでいくような感じです。例えるなら、大きなジグソーパズルを完成図がわからないまま作り始めてしまったかのような不思議な読書から始まります。

ノアという名の男が農場で暮らしています。物語は、彼の人生を追体験するかのように、その記憶を辿っていきます。読み進めていくうちに、少しづつ霧が晴れるように見えてくるノアと周囲の人々、そして、その関係性が見えてきます。一方で、時間軸が無視され、記憶の断片と現在が混在する文章構造、散文を読んでいるかのような、詩的な文章は、説明することよりも印象だけを残していきます。

パズルのピースを読者自身が繋ぎ合わせていくような作業、そうした中でほんのりとした光が降り積もるように読んでいる最中から余韻が膨らんでいきます。

ノアが抱えた喪失感が全体的に漂っていて、静かで物悲しい侘しさが募る小説です。そうした中に登場する人物のユーモアだったり、ストレートな言葉の交換、誰かを守ろうとする行動、そうしたものが暮らしに根付いた宗教観と相まって静謐な世界を作り上げています。

あらすじをお話しすることさえ憚られる小説

読み終わったら、少し余韻を味わって、そのままもう一度読みたくなる小説です。
美しい詩集を開いたときのような、優しくて哀しい詩集に触れたかのような余韻。

どういった小説か一言で表すなら、
やはり、みなさんが言うように「とても美しい小説」ですと紹介します。


 ペイネ 愛の本

 作   レイモン・ペイネ
解 説  串田孫一
発 行  1974年6月
出版社  みすず書房

フランス人の漫画家、レイモン・ペイネがソフトタッチで描いた愛の絵本を紹介します。1974年の発行と少し古い本になりますが日本でも人気のあったペイネ。軽井沢にはペイネ美術館があり長野にもゆかりがあります。

ペイネは「ペイネの恋人たち・シリーズ」で知られていますが、この本もカップルたちにまつわるさまざまなシュチュエーションが描かれています。

おしゃれで、エスプリに満ちた、少し皮肉の効いたシンプルな絵の数々。
解説は山の文芸誌「アルプ」でお馴染み、私も大ファンの串田孫一氏です。
時代を感じる一冊ですが、絵を見ながら『愛』について想像力を膨らませてください。カップルにも、おひとりさまにもおすすめです。

愛は永遠。