皎天舎

《2023年3月17日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3金曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


パレードのシステム

著 者  高山羽根子
発 行  2023年1月
出版社  講談社

 

 「首里の馬」で芥川賞を受賞した、高山羽根子の最新作になります。彼女の小説を読むと、「記憶」をモチーフに登場人物やそれぞれの場所が交差していく物語が多いように思います。

 本作の主人公は、祖父の死をきっかけに地元に帰った美術家の私。祖父が、戦前の日本の植民地だった頃の台湾で生まれ、戦後日本本土に引き上げた「湾生」だったことを初めて知ります。それをきっかけに日本統治下の台湾の歴史を調べ、台湾人の知人、梅さんに話を聞ききます。ある日、梅さんの父親が亡くなり、葬儀に参列しないかと誘われ台湾を訪れることになります。

 台湾訪問の目的は、梅さんのお父さんの葬儀に参列することですが、旅の道中、私は街を散策し台湾の文化や習慣に触れていきます。日本とは全く異なる葬儀の儀礼、死生観に触れることで、「私」の身近な人の死を振り返ります。

 その人が生きた時代や土地、そして戦争が残したもの、そこには様々な記憶や記録が交差しイメージを形作っています。そして、そのイメージもまた記憶の中で人から人へ伝えられより鮮明になったり、曖昧なものとなって忘れられたりして形を変えていきます。人や土地に降り積もった記憶、そこで生きた人の記憶が何層にも重ねられるさまは、まさにパレード。そのパレードは、周りにいる人たちを巻き込みながら進み、誰かを祝福したり、傷つけたり、救ったりします。

 人生はパレード、その終焉を荘厳ななかに響く鎮魂歌のような余韻の残る小説です。

書肆 朝陽館では、この作品の著者である高山羽根子さんが、小説を執筆する際にスケッチブックにまとめた「手書きメモ」をパネルにし展示しています。25日と26日には、高山さんご本人に来店いただき、読書会に参加していただいたり、トークイベントを開催する予定です。

ご本人のお話を聞ける、またとない機会になりますので、多くの方にご参加いただければと思います。詳しくは、当店のホームページに記載していますのでご覧ください。 


 とのととどまる。

 作   とどまる。
 絵   あきばたまみ/かんのあき
発 行  2022年11月
出版社  todomaru企画

みなさんは、長野市にいまでも殿様がいることをご存知でしょうか。
普段から“ちょんまげ”を結い、袴などの装束を身につけてイベントに登場する、
殿こと、渡辺 Yoshiさんです。
彼は日本だけでなくアメリカでも活躍するコメディアン集団「東京サーカス」の団長でもあります。

東京とニューヨークを行き来する「殿」をモデルに、ニューヨークで活動していた「とどまるさん」が物語を描き絵本に仕上げました。

江戸時代からタイムスリップした殿が文化の違いに驚いて、おかしいことをおかしいという。そうしてみんなは、当たり前として気にしていなかったことに気づきます。江戸時代の殿が贈る現代人に向けた未来志向の絵本です。

現在、Yoshiさんは生活の拠点を長野に移し活動中です。現代では唯一無二に等しい丁髷姿を見かけたら、それは、Yoshiさんに違いありません。声をかけたら明るい笑顔で応えてくれますよ。