皎天舎

ル・カイエ・ルージュ書店

アントワーヌ・ロランの「赤いモレスキンの女」
英国王室のカミラ夫人こと、コーンウォール侯爵夫人(現在はイギリス王妃)がコロナ禍に夫と隔離された際、「大切な人から隔離された時、人は読書に癒しを求める」として9冊のお気に入りの作品を発表したという。その中にあった一冊で、彼女が「完璧なパリの傑作」と評した本書。書肆 朝陽館では読書会の課題図書として選定し、その感想を語り合いました。

 この物語の主な登場人物は、パリで書店を営む離婚歴のある男と伴侶をなくした金箔職人の女の二人。

 ある夜、暴漢に襲われた女はハンドバッグをひったくられてしまう。翌朝、道端でそのバッグを拾ったのは書店主の男。男はこのカバンを持ち主に返したいと思い、カバンの中にある所持品を手がかりに、持ち主の捜索が始まる。持ち主を印象づけるのは、パトリック・モディアノのサイン本と内面を書き綴った赤いモレスキンのノート。

書店主と読書家、二人の距離がこの本とノートによって縮まっていく。当然のように多くの作家や書物が登場し、実在するパトリック・モディアノまでストーリーに参加してしまう。
ペソア、サティ、タブッキ、マラルメ。
こうした偉大な作家や詩人が登場することで、内面が次第に輪郭を持ち始め二人を結びつけていく。パリを舞台に知的好奇心がアブナイくらいに交差する大人のラブストーリー。本を愛する読書家を、たまらない読書体験へと誘います。

 登場する本が魅力的なものが多く、気になって仕方がない。自分が持っている本もいくつか出てくるので、なおさら他の本を知りたくなる。私だって書店主、ならば集めてみようじゃないか。そうは言っても翻訳されていないものや絶版も多い中で、モディアノを筆頭に、サティ、ペソア、マラルメ、アーヴィングなどなど揃えました。
この棚は、本書に登場する「ル・カイエ・ルージュ書店」です。「赤いモレスキンの女」と共にビビッドで洒落たパリのエスプリを感じてください。

落ちてるカバンを、探しちゃう。