《2019年1月30日放送》
SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第4水曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した3冊の本を改めてピックアップ。
◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。
熱帯
著者 森見登美彦
発行 2018年11月
出版社 文藝春秋
現実か、幻想か、謎に包まれた小説が登場です。何しろこの本を最後まで読んだ人間はいないのです。
小説家・森見登美彦(本人⁈)が現れて物語ははじまります。彼はあるとき、学生時代に途中までしか読めなかった小説を思い出しました。それは、“佐山尚一”という作家が書いた小説「熱帯」。その小説の続きがどうしても読みたくなった彼は、ネットや古書店などを探しますが、小説はおろか“佐山尚一”という作家の手がかりすら掴めず。そんなある日、「沈黙読書会」という名の、何らかの謎を抱えた本を持ち寄って語り合う少し変わった読書会に参加すると、なんとそこで、探し求めていた「熱帯」を手にしている女性を見つけます。
その女性によると「熱帯」という小説を最後まで読み終えた人はおらず、また、その内容について謎を追い求める“学団”なる人々も現れ、この本を探し求める人々の追跡劇へと発展します。
そして舞台は奈良から東京、京都、そして謎の島へと広がっていきます。
気がつけば物語にはレイヤーが増え、物語の中に物語があり、さらにその物語の中に物語……と、重なる鏡を覗き見るような、入れ子構造の迷路へと迷い込むようで、どんどんその謎が深まっていきますが、色々なところに散りばめられた伏線がつながっていく後半はまさに圧巻で、読めば読むほど「熱帯」の世界に引き込まれていきます。「熱帯」とは何なのか、“佐山尚一”とはいったい何者なのか。現実と幻想が入り混じった世界を、ぜひ堪能してください。
脳においしい「推理」問題集
著者 鈴木央
発行 2018年11月
出版社 ほおずき書籍
突然ですが問題です。っと、その前にメモと鉛筆のご用意を。
*** それではいきます。 ***
【かなこけてあせ】 は 【富士山】
【とそさのそ】 は 【東京】
と読めるとき、
【くあせけぬあ】
は何と読めるでしょう?〈ヒント〉は最後にあります。
この本、たんなる脳トレの本だと思ったら大間違い。上記のような暗号問題をはじめ、さらに複雑な文章問題がもりだくさんで、普通に考えていたのではなかなか解けない強者ぞろい。味や香り、舌触りなどを駆使して複雑な味わいの料理を愉しむように、さまざまな角度から見方を変え、柔軟な発想を駆使して解き進めてみてください。因みに著者の鈴木央さんは地元・長野市在住です!
最近脳みそ使ってないなーなんて方も、普通の脳トレ本じゃちょっと物足りないかもなんて方も、はたまたちょっとした時間つぶしにも。挑戦する価値大有りです。1問解くだけで脳のしわが増えるような、まさに脳に美味しい一冊です。
上記問題の〈ヒント〉は……
【別の文字列に変換してみる!!】
分かりましたか??
さいごのぞう
絵・文 井上奈奈
発行 2014年1月
出版社 キーステージ21
ーこの世界から「ぞう」という生きものがいなくなってしまうー
かつて「ぞう」という動物がいた時代がありました……。
その世界でたった一匹残った“象”のさいごの一日を描いた絵本。
ずっと独りぼっちで、孤独の中にいた象のもとに一つのりんごがあらわれ、彼らは一緒に旅にでます。
そして辿りつた大きな海。そこで象はりんごに尋ねます。
「りんごさん、ぼくの牙はなんのためにあるんだろう……
この牙さえなければ、ぼくは今もみんなと一緒に暮らせていたかな」
そして、暗闇の中に大きくてキレイな虹を目にした象は瞳から大粒の涙をこぼし、深い深い眠りにつきます。密猟や人の欲のために、多くの種が絶滅の危機に瀕しています。WWFによるとアフリカゾウもそのうちの一種で、1979年の生息数は推定約134万頭でしたが、2016年には約42万頭にまで減ったといわれています。今でも年間2万頭が密猟によって命を落としています。
象だけではありません。
さいごの虎、さいごの鳥、さいごの蝶……私たちの周りでは様々な動物の最後が目の前に迫ってきています。この絵本はいずれ訪れるであろう、さいごの象を描いたとても「かなしい」絵本です。でも、私たちの一人ひとりの小さな手で、心で、未来を変える事ができるのかもしれません。
その危機をまず知る。
そのための一歩としておすすめしたい、美しい絵本です。