《2019年6月26日放送》
SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第4水曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した3冊の本を改めてピックアップ。
◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。
トリック
著 者 エマヌエル・ベルクマン
発 行 2019年3月
出版社 新潮社
一人の孤独な老人魔術師と11歳の少年との、時を超えた奇跡の物語。
第二次大戦下、プラハでユダヤ教の貧しい家庭に生まれたモシェ。モシェは幼い時に母を亡くし、ユダヤ教のラビである父に厳しすぎる教育の中育てられます。ある日見に行ったサーカス団の魅力に囚われたモシェは、家族も宗教も全てを捨て、読心術師“ザバティーニ”としてサーカス団に入り修行を積みます。時はナチス政権へと移り変わり、ユダヤ人への周りの目が厳しくなる中、何とか自身の生い立ちを隠しながら、団員として知名度をあげていきます。そうして掴み取った魔術師としての栄光と名誉に忍び寄るナチス政権の手……。
一方、第二次大戦から何十年もたった21世紀初頭。アメリカに住むユダヤ系の裕福な家庭で育った少年マックス。彼は11歳の誕生日を目前に、両親の離婚という人生最大の危機を向かえようとしています。何とか離婚を阻止したいマックスが見つけたのは、父のコレクションの中にあったザバティーニというマジシャンの“永遠の愛の魔法のかけかた”というレコード。この魔法がかけられれば、と期待を胸に聴くと、レコードの傷が原因で肝心な部分が聴く事ができません。これはザバティーニ本人に直接聞くしかないと、マックスは家を飛び出します。そうして奇跡的にも見つけたザバティーニは、一人、施設で暮らすやさぐれたただの孤独な老人となっていて……。
マックスはザバティーニから魔法を聞き出し、両親の離婚の危機を阻止することができるのか。そして、すっかりやさぐれてしまったザバティーニの、それまでの人生とは……。2つの物語りが交互に語られ、一つの物語で起きた謎が、もう一つの物語で解き明かされる。物語の最後に判明するトリックはまさに奇跡そのもの。読む手が止まらない一冊です。
父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなく分かりやすい経済の話
著 者 ヤニス・バルファキス
発 行 2019年3月
出版社 ダイヤモンド社
多数の大学で教鞭をとり、ギリシャの経済危機の際には財務大臣を務めた経済学者ヤニス。強硬な意見で知られるタカ派の彼が自身の娘へ贈るハトのように優しい、本当に分かりやすい経済の本。「なぜ世の中にはこんなにも格差があるのか?」と問われたのをきっかけに、経済を分かりやすく、もっと身近に感じてほしいと考え出来上がった一冊です。
一万年以上前、人類が農耕を発明したことにより生産物の余剰を管理する形で生まれた「経済」。その誕生に合わせ文字やコミュニティ、建築物が発展し、争いも起こります。経済がどのように成長・発展し、どのような問題をも生み出したのか。そして経済は、これから先どのようになっていくのかを分かりやすい言葉で教えてくれます。
経済書苦手かも……という方も(かくいう私も)安心してください。一章一章が簡潔にまとめられ、ギリシャ神話や、映画のマトリックス、さまざまな文学作品が登場し身近な具体例を用いて解説しているので、興味をもって面白く読みすすめられます。経済書でこれほど面白く読める本はなかなかありません。
著者はプロローグにこう書いています。「景気の波は私たちの生活を左右する。市場の力が民主主義を脅かすこともある。経済が私たちの魂の奥に入り込み、夢や希望を生みだしてくれることもある。専門家に経済をゆだねることは、自分にとって大切な判断をすべて他人にまかせてしまうことにほかならない。」
「経済」が他人事ではなくなる。経済ニュースが面白くなる。
そのきっかけに、かなりおすすめの本です。特に未来を創造する若者たちに読んでほしいと思います。
夜のあいだに
著 者 テリー・ファン&エリック・ファン
発 行 2019年6月
出版社 ゴブリン書房
グリムロックというさびれた街の“こどもの家”で暮らすウィリアム。何やらざわつく人たちにつられて窓の外を見ると、そこにはとても可愛らしいフクロウの姿へとすっかり形を変えた木。次の日には違う木が大きなネコに、その次はウサギと、町の木々は様々な動物の姿に形を変えていきます。緑や植物に興味のなかった街の住人たちも、次第に木々の変わり様を心待ちにするようになるのですが、木々の姿が変わるのはいつも夜のあいだ。一体誰が木を剪定しているのかは誰も知りません。
ある夜ウィリアムが見かけた知らない男。彼のあとをつけるとそこで待っていたのは……。
さびれた灰色がかった街は、謎の人物の手によって色とりどりの世界へと姿を変え、人々の顔にも笑顔が蘇ります。そしてそんな人々に感化されるように、ウィリアムの心に夢という大きな光が灯ります。謎の男と木々によって変わっていく街の様子が色鮮やかに描かれた、じんわり心が温かくなる絵本です。