皎天舎

《2019年8月28日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第4水曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した3冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


82年生まれ、キム・ジヨン

著 者  チョ・ナムジュ
発 行  2018年12月
出版社  筑摩書房

韓国の国会議員が本書を300冊買い取って全議員に送ったり、企業の人権セミナーなどでも本書が多く用いられていたり、映画化が決定したがその女優がバッシングをうけたり……。2016年に韓国で発売されて以来、話題が尽きることなく100万部を突破し異例の大ベストセラーとなった小説を紹介します。

ソウル郊外で、サラリーマンの夫と1歳半の娘との3人で暮らすキム・ジヨン。ある日突然、別の人格が憑依したかのような発言を繰り返すようになり……。幸せそうにみえていたジヨンの精神はなぜ壊れてしまったのか。

キム・ジヨンの幼少期からはじまり学生時代、社会人生活、そして家庭をもつまでと年代ごとに過去を辿りながら話しは進みます。生まれた時から女であるがゆえに当たり前のように繰り返されてきた差別。何事においても弟が優遇・優先される事、就職活動での不平等、男性との賃金格差。ありとあらゆる場面でごく普通にそこにあった差別。そういった一つひとつが原因で、徐々に蝕まれていくジヨンの心。

女として生まれた事による生きづらさというものが、感情とは別に事実のみが淡々と綴られていく本作は決して男性を叱り飛ばす本でも、いわゆるフェミニズム本とも少し違います。知っておくべきなのは、儒教文化からくる習わしであったり、徴兵制度だったり、男性が優位な立場であることが当たり前だという、韓国という国にある背景。

それを知った上で本作を読んでもらえたら、決して感情的ではなく女性であること、男性であること、その間にある隔たりというものを冷静に考えるきかっけとなるはずです。

韓国文学はこの数年で飛躍的に翻訳が進み、日本語で読めるものが増えてきました。これまでの韓流ブームとは違った角度から静かな盛り上がりが見える昨今、政治的な諍いとは距離を置き、隣人を理解するという意味でも韓国文学をいま読む意義はあると思います。そこに生きる民族や環境の違いから生まれる景色の違いを、文学を通して感じてください。

これを機に韓国文学にもっと深く触れてみたくなりました。


日本列島のしくみ見るだけノート

著 者  鎌田浩毅
発 行  2019年7月
出版社  宝島社

宝島社から発売の人気シリーズ“見るだけノート”。
今回ご紹介するのは、日本列島のしくみがサクっとわかってしまう、
まさに大人のための地形と災害の教科書。

地震、噴火、台風、大雨、猛暑……。
朝起きるとまず、異常気象や自然災害の話題がテレビ画面から流れてくるのが当たり前になりつつある今。
地球が悲鳴を上げてる!とか、何か恐ろしい事が起こるのでは!?とか言われていますが、その理由ちゃんと答えられますか?

世界中で起きている地震のおよそ10%が日本で発生しているんです。狭い国土に世界全体の約7%もの火山を日本は抱えているんです。地震と火山という2つの特徴をもつ日本列島だからこそ地形の成り立ちを理解したうえで改めて災害を見てみると、地球があげている悲鳴の理由が、また対処の仕方が自然と見えてくる気がします。

ゲリラ豪雨にだってスーパータイフーンにだって、猛暑日だって、全部ちゃーんとワケがあるんです。これを読んで日本の事、地球の事、一歩深くまで考えてみませんか。


銀河鉄道の星

原 作  宮沢賢治
著 者  後藤正文
発 行  2018年11月
出版社  ミシマ社

宮沢賢治の代表作「銀河鉄道の夜」をアジカンのボーカル&ギターの後藤正文さんが愛をこめて編集しなおした、というなんとも秀逸な作品。著者の後藤さん、小学生へのプレゼント用に“本”を買いに書店に行ったんだそうです。

ところが、どの本も「ルビ」がなく高学年にならないと読めなさそうな本ばかり。すてきな絵本は多数あるけれど、後藤さんが欲しかったのは「はじめての読書」になる本、つまり“ある程度の文章を読んで何かを感じる”という体験ができる本だったんです。結局書店では理想の本は見つからず、結果自身で「銀河鉄道の夜」にルビをくわえてパソコンで打ち直して、小学生にあげたんだそうです。

今回の本は、そんなご自身の経験から出来上がった一冊。宮沢賢治ワールドはそのままに、語尾やニュアンスを分かりやすく現代風にアレンジしてあるので、まさに「はじめての読書」におすすめです。「はじめての宮沢賢治」作品としてもぜひ。