皎天舎

《2019年9月25日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第4水曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した3冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


図書室

著 者  岸政彦
発 行  2019年6月
出版社  新潮社

小説とエッセイの2編を収めた、社会学者である著者が描く、“生きる”一瞬を切り取った物語。

“図書室”
50歳を迎えた一人暮らしの女性が思い出す幼き頃の自分。
女手一つで愛情深く懸命に育ててくれた母親の事。
母親が仕事で不在の時いつも近くに居てくれた猫の事。
そして学校の帰り道にある公民館の“図書室”の事。
その図書室で出会った少年と語りあった日々。

もし地球から人がいなくなって私と少年だけが取り残されたら?そんなひょうんなきっかけから始まった二人の会話は、彼らを実際の冒険へと動かしていきます。小さいけれど、彼らにとっては大きなその冒険は、大人になった彼女の心に今でも仄かな明かりを灯し、生きる希望を与えてくれます。
そんな記憶の一遍一遍を思い出しながら、今日という日を生きる女性の日常が美しく描かれます。

“給水塔”
著者が大学進学をきっかけに移り住んだ大阪。音楽にのめりこんだ時、日雇いバイトでの出来事、そしてそこでの奇妙?個性的?変わった?人々との出会いと別れ。大阪ならではの混沌とした風景や人柄や日常を、著者ならではの繊細な言葉で綴られます。

“図書室”と“給水塔”は大阪という地を舞台に描かれる、全く別の物語です。ですが、人生にはたくさんの出会いと別れ、そして思い出があり、中にはきっと忘れてしまったささいな出来事もあるでしょう。でも、忘れていたはずの思い出の一瞬が蘇った時、それはこれからの人生においてかけがいのない宝物になるのかもしれません。

美しい文章で綴られていく、初めて読んだ岸政彦作品。
大好きな作家さんに出会えたこの一瞬も私の宝物です。


花束になるブーケブック HAPPYDAY

著 者  モーリー・ハッチ
発 行  2019年9月
出版社  グラフィック社

まさにタイトル通り。
本が、花束に、なるんです!

ページの左側には花の名前や花言葉、そしてその由来などが書かれています。そして右側についている可動式の花のイラストを回して本の上へとスライドさせ本を閉じると、まるで花瓶に活けられた花束が出来上がります。
花の種類はひなぎく、ガーベラ、ひまわりと全部で10種類。どれもお祝いや喜びを表す花言葉ばかりで、見ていると気持ちが明るく、前向きになれます。お見舞いやプレゼントにはもちろん、お部屋の片隅にインテリアとしても♪

花の力、本の力ってすごいなぁ。
13㎝四方の小さな本に閉じ込められた、大きな花束をぜひご鑑賞ください。


飛ぶための百歩

 作   ジュゼッペ・フェスタ
 訳   杉本あり 
 絵   まめふく 
発 行  2019年8月
出版社  岩崎書店

動物と山を愛する盲目の少年の出会いと成長の物語。

5歳のころ 視神経の病気で視力を失ったルーチェ。「目が見えないから」という理由で差し伸べられる手を嫌い、それからの10年間、彼はそれまで見た記憶や聴こえる音を頼りに懸命に生きてきました。

そんなある日、叔母に連れられていった山でキアーラという少女と出会います。人とうまく話すことができないがゆえに、“孤独”と常に向き合ってきたキアーラ。ルーチェとキアーラはその山に住むワシのヒナを見るという目的のもと、一緒に山へと登る事になります。人に頼れないルーチェと、人とうまく接する事ができないキアーラの距離は縮まることなく時は過ぎるのですが、ある事件が起こり……。

「誰かに頼ってもいいんだ」
「うまく話せなくてもいいんだ」

お互いを「尊重し認め合う」事の大切さを知り、自分を縛っていたものが放たれた時、大人への次の一歩を踏み出します。自尊心や自身の欲、葛藤や現実。目が見える見えないだけでなく、不安定な年頃の子どもたちが乗り越えて行く姿が、とてもみずみずしく描かれた物語です。子どもに限らず、子どもの成長を目の当たりにする大人や、自身を振り返る意味でも、たくさんの人々に読んでもらいたい作品です。