《2020年4月21日放送》
SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第4火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した3冊の本を改めてピックアップ。
◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。
※ 2020年5月より放送日が第3 火曜日に変更となります。これからもご視聴いただけたら幸いです。
雪を待つ
著 者 ラシャムジャ
翻 訳 星 泉
発 行 2015年1月
出版社 勉誠出版
語り手である「ボク」は、チベットの山あいにある農村・マルナン村の村長の息子。「ボク」と3人の幼なじみの子ども時代を描いた1980年代の第一部と、成長し都市で暮らす4人のその後を描いた2000年代の2部構成となっています。
第1部では、小学生の頃の出来事が美しい情景とともに語られます。時は文化大革命後のチベット。改革開放政策が進められる中、チベットの農村で半農半牧を営むボクたちの周りにも変化の波が押し寄せます。村に初めての学校が建設され、文化大革命時に破壊された僧院も修復し、電気の開通でラジオ、テレビといった新しい文化が暮らしの中に流れ込んできます。ボクをはじめ、僧侶を目指す友、親同士に許嫁と決められた友、いつも鼻垂れの友、彼らもその変化をチベットの壮大な景色の中で、憧れの眼差しをもって見つめます。
第2部では、20代後半となり家族をもち都会で暮らしているボクと、それぞれの人生を歩き出した幼なじみ達のいまを語ります。村に残った者、村を出た者、そして、村から逃げ出した者。置かれた場所も辿った道も着いた所もみんな違う、しかし、自分の故郷であるマルナン村をいつも心に抱いている様子が描かれます。
日々、経済は成長し続け、人々の暮らしはその都度便利になります。ですがそれと引き換えに徐々に失われていくモノもあるのかもしれません。「時代の変化」一言でそう言ってしまうと簡単ですが、その事を意識として持っていられるか、そうでないかで、その後の生き方は大きく変わってくるように思います。失われゆく古き良きチベット、失われる原風景、変化の中で誰の心にもある喪失感。故郷の大切さをしみじと心に残した1冊です。
この作品に描かれている、のどかなチベット独特の風景やそこに住む人々の営み方は、今ではもうほとんど残されていないそうです。自身の息子が生まれた時に、自分が育った故郷の記憶を残したいと思い、この作品を書いたと著者は語っています。 チベット文学の旗手による新しい風を感じてください。
深大寺恋物語 第15集
主 催 深大寺短編恋愛小説実行委員会
発 行 2020年4月
発行者 深大寺短編恋愛小説実行委員会
4000字で綴る恋愛小説。あなただったらどんな物語を描きますか?
縁結びの神様がいると伝えられている、東京は調布市にある深大寺。この深大寺とその周辺を題材とした恋愛短編小説を毎年公募し、直木賞作家らによる審査のもと、受賞作品を決定するという公募事業があるのをご存知でしょうか?
応募規定は
・4000文字以内
・深大寺界隈を織り込む事
・恋愛小説である事
・文芸作品としての価値がある事
400字詰め原稿用紙10枚という制限は、手軽に取り組めるイメージとは裏腹に、物語をまとめ、人の内面を表現するとなると容易なことではないはず。15回目の受賞作をまとめた今回の1冊でも、落語好きの主人公を用いたり、父親と同い年の男性への淡い恋心だったりと、様々なキャラクターやテーマで挑んだ超短編作品が並びます。そして今回は15回目を記念して、人気作家による書き下ろし作品も掲載されており、審査員である村松友視や井上荒野をはじめ、今村翔吾、江國香織、角田光代といった有名作家の作品も楽しめるなど、読み応えたっぷりの11篇の恋物語。
自分だったらどんな設定にしようか。主人公は男?女?時代は現代?未来?ついついそんな事を考えてしまいますが、文章を書くことの難しさからか空想だけで終わってしまいがち。16回目の公募も始まっています。我こそは!という方、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか?
そういえば、深大寺はお蕎麦がかなり有名だそうで、ほとんどの作品にも多数のお蕎麦屋さんが登場します。しかも、仏像は国宝に指定されたとのことで、どことなく善光寺さんのある我が町と重なりません?
こちらの本は書店には置いていないので、気になった方は主催者ホームページからご購入いただけます。
【購入方法】
東京都調布市にある深大寺を訪れてみようという方は、深大寺境内と調布駅前の書店で購入することが出来ます。遠方の方は、深大寺短編恋愛小説実行委員会の公式ホームページでオンライン販売を行なっていますので、下記リンクよりお進みいただきご購入ください。
・深大寺境内御守り売り場(東京都・調布市)
・真光書店 調布北口店
・公式ホームページオンラインショップ(http://novel.chofu.com)
旅の絵本
作 者 安野光雅
発 行 1977年4月
出版社 福音館書店
ヨーロッパの田舎の風景、町の雰囲気、人々の生活の様子を絵だけで表現した1冊。
動物たちの表情や人間の動き、風にたなびく木々など、細部に渡って細かく、そして美しく描かれた絵は、文字がないからこそリアルに感じられ、まるで本当にその風景の中にいるような錯覚に陥ってしまいます。
今絵本の最後に書かれているページごとの絵の解説文には、著者が実際その場所を訪れた時の感想やエピソードも書かれているのでそちらと照らし合わせながら楽しんでみてください。
外出が思うようにできない今、空想旅行の一助にぜひ♩