皎天舎

《2020年10月29日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。

※今月は予定を変更して第4木曜日の放送となりました。来月は通常通り第3火曜日に戻ります。


イマジン?

著 者  有川ひろ
発 行  2020年1月
出版社  幻冬社

「図書館戦争」「三匹のおっさんシリーズ」「阪急電車」などなど映像化された作品の多さでも知られる作家、有川ひろが送る3年半ぶりの長編小説。 これまで自衛隊員や県庁職員といったなかなか触れられる事がなかった職種にスポットを当て、それぞれの職場の環境や関わる人々の現実や成長を描いてきた著者が今回描くのは、ドラマや映画を作る「映像制作会社に勤める人々」。

27歳フリーターの良井(いい)良介。ある日、良井が歌舞伎町でチラシを配るバイトをしていると、フリーター仲間の佐々賢治に半ば強引に誘われ、撮影現場のバイトに行く事に。現場の空気に飲まれながらも、言われるがまま怒られるまま、ロケ弁を配りゴミを回収しお茶場を作り、とにかく無我夢中で走り回っている良井の中に、忘れようとしていた過去が蘇り……。

実は映像作品を見る側ではなく作る人になりたいという夢を待っていた良井。専門学校卒業後に働くはずだった映像制作会社は、出社当日に行ってみると在るべき会社はそこには無く、部屋の中ももぬけの殻。良井が働く予定だった会社は計画倒産の末夜逃げしてしまった後だった!

再就職もままならず挫折感を抱き、途方にくれながらながらその日暮らしをしていた良井が今回のバイトを通してある制作会社で働く事となり、改めて作ることの楽しさ、夢を追いかける喜びを感じ、そして沢山の仲間に助けられながら成長していく姿が描かれます。

1章ごとに違う撮影現場での出来事が描かれ、全部で5つの章で成り立つ本作。どの章もそのとき良井たちが関わっている映像作品のあらすじや出演者についても描かれていて、「イマジン?」という1つの物語を読んでいるのに、まるで5つの物語を読んだような気持ちになってしまうお得感。しかも作中には「空飛ぶ広報室」や「植物図鑑」といった実際の有川ひろの映像化作品を彷彿とさせる物語も登場し、まるでそのドラマの撮影現場での出来事を体感しているような感覚も得られます。それもそのはずで、有川さんは最初好奇心で自身の映像化される作品の現場に足を運んだそうなのですが、その時の現場の空気や関わる人々の熱気や言葉に触れた時に「この人たちの事を書きたい」と強く思い、そこからこの作品を書くために10年近く取材を重ね、そして出来上がったのがこの「イマジン?」との事。なので、良井の成長を核に、周囲にいる登場人物たちの心の内もとても丁寧に描かれていて、それぞれの夢や現実、葛藤の末に発せられる彼らの言葉も、読んでいる私たちにパワーを与えてくれます。 

こんな時だから!小さい事に喜びを感じ、夢の途中の今を楽しみたい!
そんな読後感に明日への力をもらった一冊です。


このほんよんでくれ!

 作   ベネディクト・カルボネリ
 絵   ミカエル・ドゥリュリュー
 訳   ほむらひろし
発 行  2019年7月
出版社  クレヨンハウス

人間の親娘の読み聞かせをこっそり聞いていたオオカミ。

親子が読み聞かせの途中で家に帰ってしまい、話しの続きが気になって気になって仕方のないオオカミは、偶然その本を手に入れたものの、実はオオカミは字が読めなかったのです。

「このほんよんでくれ!」と他の動物たちにお願いするのですが、みんなオオカミの事が怖くて断ってしまいます。そんな中、小さなウサギだけはその本を読んであげます。 ウサギは、くる日もくる日もオオカミに頼まれるたびに読んであげていたのですが、ある日オオカミから「よみかたを教えてくれないか?」と頼まれます。読み方を教えたらウサギはもう用無し。食べられちゃうのでは、とおびえるのですが……。 

いったいだれが想像したでしょう!
まさか、あの怖いオオカミが……!?

フランスの作家で、幼稚園の園長である著者が描く心があったかくなる絵本。読み聞かせにもオススメです。