皎天舎

《2020年11月17日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


さよなら、エンペラー

著 者  暖あやこ
発 行  2020年7月
出版社  新潮社

難解な世界観と不可思議なキャラクター設定、それでいて味わい深い文章が心地良いのはなぜかしら。ページをめくる手が止まらない……そんな1冊です。

4年前、AIに首都直下型大地震が来ると予告され、東京から地方へ人々が逃げ出し、企業や政府機関、天皇までもが東京をあとにした。物語の舞台となる閑散とした東京では、希望を見出せず東京に留まった人、金銭的な問題から逃げ出すことのできなかった人など止む無く暮らす人々ばかり。予告期限の迫る東京では、働けど生活は豊かにならず、いつ首になるかもわからない。しだいに人々は生きる気力をなくし活気を失っていく東京。

そこへ突如現れた謎の男。その男は黒い羽根をつけた山高帽を被り、軍服を思わせる服をはおり、杖をついて歩きまわり、人々の前に現れ「朕は東京帝国の皇帝である」と宣言します。
そして、皇帝の付き人になりたいと名乗り出た17歳の青年(この物語の主人公)と2人のなんともおかしな生活が始まります。

公共サービスもままならなくなった東京の地を視察という名目でひたすら歩き回り「何かお困りかな?」と人々に声をかけ続ける皇帝、悩みを聞くだけで引っ掻き回す不器用な皇帝とその尻拭いをする青年。そんな2人の姿に最初は訝しんでいた人々も次第に信頼をよせ始めます。ところがある新聞記者が謎だらけの皇帝の正体を掴んだと言い始め、事態は思わぬ展開へと転がり始め……。

皇帝とは一体何者なのか。大地震は本当に来るのか、その時人々はどうなるのか。

ちょっと変わった近未来ファンタジー?SF?と思いながら読み進めた中盤で、実はこの主人公の青年にも隠された秘密があり、読み進めるうち皇帝に近づいてきた目的が判明します。それぞれの立場が交差し、人には決して言えない苦しみや葛藤によって潰れそうになっていた青年が、皇帝の存在によって救われていく。その過程は、気づくと目頭が熱くなってしまい、全貌が見えた時に「人っていいな〜」ってじんわり思ってしまいます。
物語の終盤で、皇帝が青年の父親に当てた手紙は、淡々とした文章ながらも温もりが所々に感じられ、思い出すと今でも泣けてきます。

物語の性質上、コロナ渦の苦労とリンクしてしまうこともあって賛否両論あるかもしれない、好き嫌いがあるかもしれない、でもこの物語、私は好きです。

ぜひ、読んでみてください。


ホッキョクグマ

作・絵  ジョニ・デズモンド
 訳   福本由紀子
発 行  2018年3月
出版社  BL出版

まるで図鑑のような可愛い絵本。緻密なイラストとともにホッキョクグマの色んな事が分かります。
ある日、本棚で女の子が見つけた一冊の絵本。そこにはホッキョクグマの事が色々書いてあって……。
 

ホッキョクグマって、人間と同じ位の体温なんだって。あんなに寒い場所にいるのに寒く無いの?ホッキョクグマは冬眠しないけど、エサが捕まえにくい夏になると1日の半分近く眠っているんだって。羨ましい!
ホッキョクグマの赤ちゃんはたいてい双子でうまれるんだって!
ホッキョクグマって、水中で2分間息を止めていられるし、長距離を泳ぐもの大得意、走っても人間より早いんだって!

動物園では目にすることがあっても、あまり詳しくは知らないホッキョクグマの生態を、絵本を読む女の子の目線を通して知ることができます。

ホッキョクグマは温暖化や乱獲が原因で絶滅の恐れがある動物です。この絵本を通して、環境を守る事がこの愛らしいホッキョクグマの命を守る事に繋がるかもしれない……絵本を通してホッキョクグマについて学んでいく、それと同時に本を読むことによって知ることができる。両方の発見がある、そんな事を感じながら読んで欲しい、読んであげて欲しい絵本です。