皎天舎

《2021年2月16日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


家族じまい

著 者  桜木紫乃
発 行  2020年6月
出版社  集英社

臨場感あふれるセリフやシーン、さりげないのに美しい一言が胸に響き、重いテーマなのにページをめくる手が止まらない一冊。

認知症を患った母親・サトミとその介護を1人で続ける父親・猛夫。そんな2人の老夫婦を取り巻く娘、親族、そのほかの人々。様々な年齢や立ち場からみて、家族の在り方や老いへの向き合い方を描いた短編小説。

老夫婦の2人の娘やサトミの姉に加え、猛夫が最後の旅行にとサトミを連れて旅した先で出会った女性など、5人の女性の視点で物語は進みます。

老夫婦の長女であり、自身も子育てを終え家族の営みにひと息ついた智代は、豪腕な父親に振り回され続けた過去を忘れる事が出来ず、長女という役割を放棄し、親と距離を置いて過ごしてきた。だが母親の認知症という事実を受けて、今までの自分の生き方や親との向き合い方、そして老いてゆく自分たちと改めて向き合い始める。(第1章)
一方、長女へ対抗するかのように親との関係を深め続けていた次女乃理は、二世帯住宅にして一緒に住む事を提案する。しかし経済的不安や旦那への不満から逃れるように隠れて飲み始めたお酒は、日に日に量を増していき……。(第2章)
第4章では両親が離婚し片親で育った女性紀和が、この老夫婦一家と出会ったことにより、別れて暮らし、金銭の授受で成り立っていた父親との関係を振り返り、こう語ります。
『ふと、終わることと終えることは違うのだという思いが胸の底めがけて落ちてきた。新しい一歩を選び取り、自分たちは元家族という関係も終えようとしているー自発的に「終える」のだった。
終いではなく、仕舞いだ』(作中より)

サトミと猛夫というひと組の夫婦に触れた人々が、それぞれ感じた家族への思いや後悔を経て、改めて家族との付き合い方を模索していきます。

キレイごとでは済ます事が出来ない家族のあり方。これにはきっと正解も不正解もないのかもしれません。大事なのは、親のせい、人のせい、周りのせい、と誰かのせいにして未来を決めるのではなく、自らのために自分で決めること。すると自ずと、「仕舞う」という状態に近づくのかもしれません。

家にいる時間や家族と過ごす時間が増えたいま。この小説をとおして家族のあり方について考えてみてはいかがでしょうか。


うし

 詩   内田麟太郎
 絵   高畠 純
発 行  2017年7月
出版社  アリス館

ドーンと表れたのは牛の後ろ姿。
その牛が振り返った後ろにいたのは牛。
さらにその牛が振り返った後ろにいたのは……やっぱり牛!
牛、牛、牛、牛。
ページをめくるたびに表れる牛たちで、絵本いっぱい牛だらけ〜。
呆れた牛が放った言葉は……!?

最後にお決まりのオチが待っています。

バカらしいのに可愛くて愛おしくて大人でも爆笑病みつき間違いなし。
今年は丑年。
本屋さんに寄ったついでに、「モウ」一冊。こちらの絵本、おすすめです。