皎天舎

《2021年5月18日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


ミシンの見る夢

著 者  ビアンカ・ピッツォルノ
発 行  2021年3月
出版社  河出書房新社

疫病がはびこり、階級社会、男女格差が当たり前のように存在していた19世紀末のイタリアを舞台に、お針子という仕事にプライドを持って力強く生き抜いた少女の生涯を描いた物語。

コレラの流行で両親を亡くした主人公の少女は「お針子」の祖母と2人で生きていくことに。上流階級の家に行って、簡単な繕い物から子供服や婦人服等の裁縫をするお針子として素晴らしい腕を持っていた祖母を見て、少女も裁縫のノウハウを一から学んでいきます。そんな祖母も少女が16歳の頃に亡くなり、少女は祖母から受け継いだ裁縫の技術を持って、1人で様々な家庭に赴き針仕事を請け負っていく事になるのですが……。階級社会や男女格差が原因で巻き起こる、各家庭での問題や事件を描いたオムニバス形式で物語は進みます。

主人公の少女は、著者であるピッツォルノの祖母と同い年の設定との事。実際に祖母から聞いた話しや残っていたハガキや手紙、そして当時の新聞を調べ集め、本当にあった話を軸にフィクションとして作り上げた本作。なので、その当時の時代背景や男女格差、厳しい階級社会が良い悪いではなくリアルに描かれます。それが故に起こる事件や問題、女性としての生きにくさにぶち当たりながらも、祖母の意志やお針子としてのプライド、そして1人の女性として強く生きている少女の姿は私たちに勇気を与えてくれます。

流行りの服を安価にどこでも簡単に手にいれらる事が出来るようになった現代。その裏では最低賃金以下の報酬にも関わらず、身体を痛め、命を削り、時には死と隣り合わせの状況で縫う仕事をしている人がいます。縫うという事は素晴らしい創造的な活動であるべきだと、著者は前書きで訴えます。今はもういなくなったお針子さんですが、1着1着思いを込めてその人だけの服を作っていた、そんな時代があった事を心に留め、今ある服を大切にしていかなければな、と学んだ1冊です。


大きな木のような人

 作   いせひでこ
 絵   布川愛子
発 行  2009年3月
出版社  講談社

フランスの植物園で出会った植物学者と日本人の少女の交流を描いた物語。

植物園の立入禁止区域に足を踏み入れたり、植物を勝手に抜いたりと問題を起こしてばかりの、どこか影がある少女さえら。それを静かに見つめていた植物学者のおじさんは、そっとさえらに寄り添い、植物の大切さや尊さ、偉大さを語ります。小さな草花から樹齢400年のアカシアの木、250年のプラタナスの木々たち。そんな植物たちに囲まれているうちにさえらは次第に打ち解け心を開いていきます。しかし時が過ぎ植物たちの葉が落ち始めた頃、さえらは日本に帰る事に……。

最後にさえらが残した「ありがとう」とそれに答える植物学者の行動に、心がホッと温かくなります。新緑が眩しくなってきた今、植物のパワーをもらいにこの絵本はいかがですか。

ちなみに、さえらが日本に帰ったあとの物語も続編「まつり」という題名で出版されていますので合わせてお楽しみください。なんと今度は日本でさえらと植物学者が出会うんです!?