皎天舎

《2021年9月21日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


カード師

著 者  中村文則
発 行  2021年5月
出版社  朝日新聞出版

表向きはタロットカードの占い師。裏では違法カジノのイカサマディーラーという2つの顔を持つ男の数奇な運命を描いた作品。

カード師の僕は違法カジノのディーラーでありタロットカードを用いた占い師。ある組織からの依頼で、投資会社社長の資産家、佐藤の顧問占い師になり素性を探るように言われる。渋々その依頼を受けるのだが、そこから僕の運命は大きく狂い始める。

佐藤の秘書が言うには、彼はすでに数人の人間を殺しているという。しかも殺された内の一人は、前任の占い師で、その占いが当たらなかったことにより始末されたのだという。全てを見透かしたかのような男、佐藤。占いを外せば殺される。でもこの男から逃れることはできない。理不尽の渦にのまれながら過ぎていく日々の中で、次第にそれぞれの過去が明らかになってくる。組織とは一体なんなのか。佐藤はなぜそこまでして占いを求めるのか。僕にとって占うとは、生きるとはなんなのか。

450ページ以上に渡って繰り広げられる物語の中には、14世紀ペストに犯されたヨーロッパにて存在していた錬金術師の弟子の手記や、16世紀の魔女狩りの記録、そしてナチス政権下での焚書についての覚書などに始まり、オウム真理教の地下鉄サリン事件や東日本大震災、そして今私たちが直面しているコロナウィルスに襲われた人類の歴史が複雑に絡み合い、物語をより一層深いテーマへと導きます。この物語を通して作者が読者に訴えたいことは何なのか。そんな事を考えながら読んでいると、難解ながらも続きが気になり、読む手を緩めることができなくなります

混沌とした世の中、希望や未来を見失いがちな今だからこそ読みたい一冊。


つきのばんにん

 作   ゾシエンカ
 訳   あべ弘士
発 行  2021年9月
出版社  小学館

シロクマのエミールの元に「よるのどうぶつくらぶ」から会議への招集の手紙が届きます。その会議で新しい「つきのばんにん」に選ばれたエミール。月は夜の動物たちにとってなくてはならない光で、その番をできることがとても嬉しく、張り切って月の番へと繰り出します。
毎晩高い高い木に登って月に寄り添い、怪しい雲が近づいてきたら掃除機で吸い取って、コウモリが月を横切ろうものなら注意して。そんなある日、エミールは何かがおかしいことに気づきます。

なんと!お月さまがどんどん細く薄くなっていくのです!!

このままでは月が消えてしまうと慌てたエミールは、月に話しかけたり、ジャングルに住むヒョウに電話したりとあらゆる手をつくしますが、そんなエミールを横目に月はどんどん細くなっていき……。

エミールの願い叶ってまんまるお月さまにもどるでしょうか?
今日は中秋の名月。夜空を見上げながら親子で月の満ち欠けを見つめてみてはいかがですか?