皎天舎

《2021年10月19日放送》

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


父を撃った12の銃弾

著 者  ハンナ・ティンティ
発 行  2021年2月
出版社  文芸春秋社

母親に先立たれた父と娘。彼らの生い立ちと今を描いた物語。

母親亡き後、残された父(ホーリー)と娘(ルー)はトラックに乗りアメリカ中を転々としながら暮らしていた。10代という年頃を迎えたルーの為に腰を据えようと移り住んだのは、母親が生まれ育ったニューイングランドの小さな港町。
一見どこにでもいそうな仲の良い親子に見えるのだが、2人の住処であるトラックにはライフルやショットガンといった銃器が立ち並び、まだ子供のルーすらもそれらの扱いを教え込まれていた。しかもホーリーの身体には銃で撃たれたいくつもの跡が残っていて、ルーが生まれてすぐに亡くなったという母親の死因についてもどこか謎めいていた。だからか2人は町の人からもどこか一線を引かれ、学校に通い始めたルーはいじめや疎外の対象となってしまう。それでも持ち前の負けん気とたくましさで立ち向かうルーに、男手一つで精一杯ルーを育てるホーリー、そして良き理解者であり味方となってくれた周りの人に支えられ、親子は力強く生き抜いていく。
そんなルーとホーリーが2人で暮らしている現在を描いた物語と交互に描かれているのが、ホーリーの身体に遺る銃痕の物語だ。
まだ10代だった頃のホーリーがルーと2人で暮らすようになるまでに受けた銃は11発。その一つ一つの物語がまるで短編小説かのように語られる。仲間と共に犯罪に手を染めた時に初めて受けた1発。偶然出会った女性を守るために受けた1発。そして妻となったその女性から受けた1発。次第に見えてくるホーリーが抱いてきた葛藤や苦悩、秘密、そして母親の死の真相とは……。

そんなホーリーの過去を描いた物語と、現在の父娘の物語が交差した時、この物語の最終章を迎えます。2人の向かう先がどこなのか、2人の未来に光は差すのか。最後の最後まで結末が予想でませんでした。

銃社会への賛否や、貧困、差別、格差といった社会問題が詰まった作品と思われる方もいるかもしれませんが、この物語はそれだけではありません。ルーの純粋、無垢さゆえのたくましさや、ホーリーの娘に対する愛おしさ、妻への愛。そして父娘を支えてくれる人々の温かさがとても丁寧に描かれていて、そんな中で必死で生きる2人の姿に目が離せず、読み終わった今でも心に残っている作品です。


かえでの葉っぱ

 作   デイジー・ムラースコヴァー
 絵   出久根育
発 行  2012年11月
出版社  理論社

山はだに立つ紅葉で色づいた一本のかえでの木から、一枚の葉っぱが舞い落ちます。落ちた葉っぱはもっと遠くへ行きたいと願うのですが、自分の力じゃどうにもかないません。そこで偶然通りかかった少年と「いつか戻ってきたら、話を聞かせる」という約束をして、少年の手で強い風に乗せてもらい葉っぱは空高く舞い上がり、旅立ちます。
ツバメと一緒に空を飛んだり、押し葉にしようと企む子供達から逃げたり、川に流されて雪化粧の森に辿り着いたり。
ふと葉っぱは自分の色が変わっていることに気がつきます。少年と会った時は黄色くて周りがピンクであんなに綺麗だったのに、今は茶色いくどんどん色が濃くなってゆく……。
でもそんな自分も悪くないな、と少し誇らしげに葉っぱは語ります。
そして季節が巡り、残り僅かな命の中で最初に出会った少年の元へ行き、数々の冒険を語り静かに最後の時を迎えます。

チェコの作家であり画家である著者が1970年代に発表したこの物語に、時を経て出会った日本人の絵本作家でプラハ在住の出久根育さんが絵を描いたこの作品。静かで落ち着いた色合いで、まるで本当にチェコの素晴らしい大自然の空気に包まれているような気持ちになります。

冒険に繰り出す葉っぱのワクワク感と、人生とか生き方を問う感慨深さもあり、子供から大人までオススメの絵本。