ー 2022年1月18日放送 ー
SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。
◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。
なっちゃんの花園
著 者 寮美千子
発 行 2021年9月
出版社 西日本新聞出版
著者がひょんな事から出会った81歳の女性。彼女の辛く苦しく壮絶で、それでも常に前を向いて明るく必死で生きてきた半生を綴ったノンフィクション作品。
外来植物であるハナミヒナゲシ。オレンジ色の花をつかせ、一見綺麗だけど驚異の繁殖力と他の植物を育てにくくさせてしまうという恐ろしい植物なんだそう。そのハナミヒナゲシを見るとどうしようもなく抜きたい、抜かなければならないという使命感に捉われる著者が、家の近所の河川敷を散歩している時に見つけた、一面に広がったハナミヒナゲシの花畑。しかも近くには幼い子が書いたような文字で掲げられた「ゴミ捨て禁止 通る人お願いします」の看板。この花畑は誰かが管理していると判断した著者は、後日改めて近くの長屋を訪ねます。そこの家主こそがこの本の主人公、なっちゃん。ハナミヒナゲシの事を知ったなっちゃんは著者と一緒にこの植物を抜き、そして自分の生い立ちを語り始めます。
「うちね、在日二世やねん」唐突にそう話し始めます。
戦時中に労働力として朝鮮から渡ってきた父親が、日本で結婚をして生まれたのがなっちゃん。小学校に入学するもすぐに、先生や生徒からのひどいイジメをうけ早々に学校を去ることに。なので字も書けないどころか読む事もできないまま大人となり、親に言われるがまま結婚し嫁ぐことになります。しかしそこでも義父母からの差別に苦しみ続け、子供も奪われそうになり逃げるように離婚をし、かつて東京にあったゴミで埋め立てた土地「夢の島」にて貧困と隣り合わせの暮らしを経験します。
それでもなっちゃんは子供を育てるためにと、持ち前のパワーと愛嬌を武器に次から次へとやってくる苦境を女手一つで乗り越えます。読み書きができなくてもスクーターの免許を取ったり、義父母にさらわれた子供を取り返そうと、一人飛行機に乗って見知らぬ土地の北海道に向かったり、そこで戦うために裁判をしようと役人とかけあったりと、普通の人なら諦めてしまいそうな事でも決して逃げ出さず力を込めて一歩を踏み出す努力をします。
一見辛くて苦しいだけの半生のように思えるのですが、常に前を向いているなっちゃんの行動や著者とのやりとりや語り口調は、自分の事なのにどこか他人事のようにあっけらかんとしていて、苦しいはずなのに何故かおもしろく、読んでいる私たちもクスリと笑ってしまうほど。だからか本を閉じた後もなっちゃんの生き方が清々しいまま心に残り、たとえばこの先辛いことや悩むことがあって立ち止まってとしとしても、踏ん張って前を向いて進んで行ける強い自分になりたいと感じました。
新しい年を迎えた今、一年間の心構えのきっかけとしてもおすすめしたい一冊です。
おちゃのじかんにきたとら
作 ジュディス・カー
絵 布川愛子
発 行 1994年1月
出版社 童話館出版
ソフィという小さな女の子とお母さんがお茶の時間を楽しんでいると玄関のベルが鳴ります。ドアを開けるとなんとそこには大きなトラが!しかも「とてもお腹が空いているからお茶の時間をご一緒させてもらえないか」と頼んでくるではありませんか。お母さんはそんなトラの態度に驚くどころか、どうぞどうぞと家の中に迎え入れてあげます。
お茶の席に着いたトラはお母さんに勧められるままサンドウィッチもビスケットもケーキもミルクも全部食べて飲み干しちゃいます。それでも満足しないトラは台所まで行き冷蔵庫の中や戸棚の中など、家の中の食べ物も飲み物までぜーんぶたいらげる始末。それでも怒りも不愉快なふりもしないどころか、お腹いっぱいになったトラを笑顔でみおくってあげるソフィとお母さん。トラのいなくなった家の中はぐちゃぐちゃで夕飯にと買っておいた材料も全てなくなってしまい、今夜のご飯はどうしようかと悩みます。仕事から帰ってきたお父さんに相談すると、お父さんはいたって普通に冷静に現実的な解決策を提案するのです。
その解決策がなんとも平和で穏やかで家族みんながほっこりする笑顔を見て、私たちもつい一緒にほっこりしちゃいます。
わがままで自分勝手で、しかもトラという珍客が来て周りを荒らされたにも関わらず、みーんな笑顔で過ごしている姿はなんともユーモアがあり、平和の大切さを教えてくれている気がします。トラにどんどん懐いてぺったりくっついているソフィの姿も可愛らしく癒されます。
1968年に出版されて以来世界中で翻訳されて愛されている絵本、まだお持ちでない方は、寅年の今年こそぜひおすすめです。