皎天舎

ー 2022年2月15日放送 ー

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3火曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


赤と青とエスキース

著 者  青山美智子
発 行  2021年11月
出版社  PHP出版

【エスキース】とは仏語で「下絵」の意味。

一人の日本人女性が描かれたエスキースが繋ぐ5編の愛の物語。

1話目で語られるのは、このエスキースが描かれるきっかけを作ったある恋人たちの物語。 1年後には日本に帰る事が決まっている交換留学生としてオーストラリアに来ていた女性レイは、現地に住む日本人のブーと出会い、“期限付き”という条件のもと付き合う事になります。1年と短いながらもお互いを知るには十分な時間を過ごした2人に、もう間もなく別れの日が訪れようとしたある日、レイはブーの友人である若手画家のジャック・ジャクソンから絵のモデルをやってほしいと依頼を受けます。最初は気乗りしないレイですが、しぶしぶその依頼を受けることに。そして訪れたジャックのアトリエで緊張しながらもモデルとして描かれるレイ。そしてそれを見つめるブー。期限付きだってわかっていたはずなのに、始まれば終わる恋だと覚悟していたはずなのに……。2人の心に今までの思い出とともに“別れ”までのカウントダウンが重くのしかかります。見つめ合う若い2人の未来はいかに。 

2話目は1話目から10年後の日本が舞台。夢を見失いかけていた額縁職人が、ジャックの作品であるエスキースと出会った事で夢を見つめ直します。そこからさらに10年後が描かれる3話目では、ジャックの描いたエスキースが飾られた喫茶店で、雑誌の取材を受けるベテラン漫画家とその弟子。弟子がマンガ大賞を獲った事で失われかけた師弟関係の行方は。そして4話目ではパニック障害を患った雑貨屋とデザイナーという50代カップルの恋愛模様を描き、最終章へと物語は進みます。エスキースが描かれてからの31年間を、ある人物の目線でふりかえります。 

ひと組の恋人たちの出会いがきっかけで描かれたエスキースが繋いだ5つの愛の物語。最終章で私たちが知ることとなる真実は、驚きや発見はもちろんですが、愛する事の素晴らしさや、人との繋がりの大切さを感じ、読んだ後には温かさとともに不思議と心が洗われたような気持ちになります。

今隣にいる誰かを大切にしたい。バレンタイン、ホワイトデーと愛にまつわるイベントが目白押しのこの季節、特におすすめの一冊です。


雪の写真家ベントレー

 作   J・B・マーティ
 絵   M・アゼアリアン
 訳   千葉茂樹
発 行  1999年12月
出版社  BL出版

1999年、アメリカで発売された最も優れた児童文学作品に贈られる、コールデコット賞受賞作品。

今でこそ雪の専門家として知る人ぞ知る存在となったウィリアム・ベントレーですが、みなさんはベントレーという人物の事知っていますか?この絵本は雪の結晶に一生を捧げたベントレーの生涯を美しい版画とともに紹介した作品。

ベントレーは1865年に豪雪地帯で知られるアメリカバーモント州の農夫の子として生まれ、学校教育もろくに受けられない環境の中、母親に様々な事を教えられ成長します。家業を手伝うかたわら、親にもらった顕微鏡で花や雨粒など様々なものの観察を始めるのですが、その中でも一番だったお気に入りはもちろん、雪。顕微鏡でのぞいてはスケッチを繰り返すうちにある事を発見します。それは雪の結晶のほとんどは6本枝で構成されており、しかも同じ形のものは存在しないということ。15歳の時から毎年100枚以上のスケッチを残したベントレーですが、ある日顕微鏡付きのカメラの存在があることをしります。決して裕福ではない家庭でしたが、両親はなけなしのお金をはたいてそのカメラをベントレーに与えてあげます。

17歳を迎えた頃、とうとう雪の結晶をカメラに収めることに成功し、そこから50年以上もの間、毎年毎年雪の結晶をカメラに収め続けます。次第にその研究が人々に認められ始め、66歳の時に念願の写真集を発売することに。しかしそれから1か月と立たないうちに命を落とす事となったベントレー。彼が生涯のうち雪の写真につぎ込んだ費用は15000ドルもの大金で、それらを使って得た収入はなんと4000ドル程度だったそう。私利私欲ではなく、雪の結晶に魅せられた強い信念があったからこその偉業なのだと改めて気付かされます。

私が小学生だった頃の理科の授業で、雪にはひとひらひとひら形があって、それを結晶と呼ぶ事をスライドに映る画像とともに教わりました。それからというもの、車の窓に残された雪の残像や手袋の上に乗った小さな結晶を見ては、溶ける前にその形を目に焼きつけようと必死に目を凝らし、その神秘的な形に感動していたことを思い出します。ベントレーという偉大で実直な青年の、確かな想いがあったからこそ、今私たちは雪の結晶に思いを馳せることができているのかもしれません。今ではベントレーの故郷の村の真ん中には、記念碑が建てられているんだそうです。そこにはこう刻まれています。


“雪を愛したベントレー ジェリコが生んだ世界的な雪の専門家”


幼少期のベントレーが雪に魅せられ、時を過ごした場所に置かれた記念碑の周りで、今でも雪と戯れて遊んでいるであろう子供たちの姿を想像すると、なんとも感慨深く胸が熱くなります。

ベントレーの生涯、雪の美しさ、目標に向かって真っ直ぐに突き進む姿勢、そしてそれを支える両親や、周りの人々の温かさなど、読めば読むほど味わいが増すこの絵本は、一家に一冊、一校に一冊、置いてあって欲しい。そう願ってしまうほどに、本当に素晴らしい作品です。