皎天舎

《2022年9月16日放送

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3金曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。


夜に星を放つ

著 者  窪美澄
発 行  2022年5月
出版社  文藝春秋

オール讀物に掲載された五つの短編が書籍化されました。タイトルは「夜に星を放つ」です。著者の窪美澄さんは本作で今年の直木賞を受賞されました。

全ての物語で主人公たちは夜空を見上げ、星の名を呟きます。五つの物語は、

・コロナ禍で婚活アプリで出会った恋人との関係の揺らぎを描く「真夜中のアボカド」
・十六歳の夏休みに幼馴染と過ごした海辺でのさざなみのような時間が沁みる「銀紙色のアンタレス」
・いじめに思い悩む中学生の元に現れた母親の幽霊が震えさせる「真珠星スピカ」
・妻と娘に置いていかれ傷心のなか出会ったシングルマザーとの出会いがヒヤリとさせる「湿りの海」
・新しいお母さんと生まれたばかりの弟、形が変化する家族の中にあって、それそぞれが抱える苦しみと思いやりが交差する「星の隨に(まにまに)」

姉妹や妻子、そしてお母さん。かけがえのない人を失い深く傷ついた主人公たちが、それでも誰かとの繋がりを求めて新しい人生を踏み出そうとする。想いに耽るときはいつだって人は星空を仰ぎ見てきたように、主人公たちもまた空を見上げます。そんな彼らを見守るように夜空に輝く星座や星々。新しい人生、新しい人との関係、そこに希望の光を見出そうとする主人公たちの揺らぎは、星の煌めきのように繊細で、心の奥底を暖かな手でぎゅっと握られるような切なさ。それでも、悲しみや絶望では終わらない、希望を感じる読後感は、著者の筆力の高さと、主人公たちを見守る眼差しにある優しさなのではないでしょうか。

小説に登場する星座を見あげて、眠りにつく前に一篇ずつを読むのもいいですね。カバーを捲ると紺色の表紙に銀色の細い線で、物語に登場する星座や星の名前が描かれています。こうしたさりげなく素敵なデザインも小さなプレゼントを貰ったみたいで、この本の好きなところです。

この本が、明日、誰かと心を通わせる後押しをしてくれるかもしれません。

また、小説の中にはコロナ禍の状況が描かれていますが、文学の中に新たな情勢が描かれると、それがもはや日常、当たり前のことになったんだと感じます。私たちの生活もこれまでとは一変しましたが、この先どうなっていくのでしょうか。思わず天を仰ぎます。


 ほしのこども

 文   メム・フォックス
 絵   フレヤ・ブラックウッド
発 行  2020年7月
出版社  岩波書店

ある日、空から落ちてきた小さな星は、赤ん坊になりました。星の模様の布で包まれた赤ん坊はとても美しく、人々は「ほしのこども」と呼ぶようになります。赤ん坊はすくすくと成長し大人になっていきますが、みんな、「ほしのこども」が大好きで、いつも家族や友達に囲まれていました。希望や夢に満ちた幸せな毎日を過ごします。やがて年老いた、「ほしのこども」はしだいに小さくなり、ある日消えてしまいました。

悲しみに暮れるみんなは互いに慰め合いますが、夜空に「ほしのこども」を見つけます。「ほしのこども」はいつもそばにいてくれました。みんなのことを見守ってくれていました。

人を愛すること、そして、愛されること。この言葉にある深くて大切なものが、ラフなスケッチのような美しい絵の中に封印されているかのよう。

みんなを照らす星になりたい、そして照らされたいと願うような幸せな思いに包まれる絵本です。