服部貴康 『まめったい暮らし』 写真展
長野県旧中条村の小さな集落を撮り続けた10年間の記憶。
中条村でも山の上、最も過疎化が進む6区。長い間一人で暮らす滝沢静子さんは、この集落の記録を残しておきたいと考えていました。同じ頃、中条出身の母を持つ小山奈々子さんは祖父母の家に友人を連れて遊びに来ていました。その中の一人、写真家・服部貴康は中条村の人々や風景をフィルムカメラに収めはじめました。こうして10年。中条村6区住人全員の撮影が終わり、写真集『まめったい暮らし』が完成しました。
版元は昨年、「ジジの合鍵〜巡回展 in 長野」でご縁ができたルーシーケイ です。ギャラリーでのイベント時に中条村のお話をお聞きしていましたが、この度、写真集完成を記念して朝暘館ギャラリー「蔵」にて写真展を開催する運びとなりました。この機会に中条村の美しい景色やまめったい人々をご覧いただき、その温もりに触れてください。
みんなが生きているうちに
みんなが生きているうちに服部さんの写真で6区全員の写真集を作りたい。
編集長でもある滝沢静子の発案で写真集の制作がスタートし、写真家・服部貴康が撮影を始めて10年の月日が過ぎた。写真集『まめったい暮らし』は、まめったい笑顔で溢れている。しかし現在、平均年齢85歳の中条6区は高齢化が加速して進行している。レンズに向けてまめったい笑顔を見せていた約半数がすでに泉下の人となった。
各地で限界集落の危機が叫ばれる昨今、抗いようのない過疎化が静かに集落を飲み込んでいる。人が離れる理由はいくらでもあるのだろう。しかしこの地において人々の暮らしとは、集落が消えようとするほどのものだったのだろうか。
未来の人が、かつてここに人々が暮らしていたと教えられたとき、なにを想像するだろうか。過酷な自然環境や不便な暮らしぶりなどだろうか。しかし、もしもそこに写真集『まめったい暮らし』があったなら全く異なるイメージと対峙するはずだ。そこには美しい景色と、爽やかな人々の笑顔、あたりまえのように漂う温もりと豊かな時間が写し撮られている。
中条村6区、小さな小さなローカルに残された豊かな記憶。でもこの写真集は、全国の山村にある未来へ伝えるべき光の集合体なのだ。
「昔は鯉のぼりが村中の家に上がってね。
それはそれは綺麗な空であれは忘れられない風景でね。
鯉が泳ぐ数だけ子供もいて本当に賑やかだったんだよね」
(滝澤静子)
「限界集落」は、僕たちが暮らしている日本の全ての都市や町や村で、
静かに、しかし確実に生まれているのです。
(服部貴康)
大事にしたい景色や文化がそれぞれの心の中にもあって、
きっとみんなが持っているその大切な気持ちを静子さんは形にしたかったんだと思った。
(小山奈々子)