皎天舎

あの人の顔を思いだしながら

本を読んでいると、“あの人”を思い浮かべることがあります。

 タイトルが“あの人”の口癖だった、登場人物が“あの人”に似ていた、その記述と同じことを“あの人”が言っていた、そして、その本を読んで感じた気持ちを“あの人”に伝えたいなど。“あの人”を顔を思い出しながら選ぶ本・読む本。“あの人”に贈りたい本であるかもしれません。

 誰かに本を贈ることは、勇気が必要な行いです。“あの人”のことを考え抜いた末に選ぶ一冊、“あの人”に知って欲しくて捧げる一冊、いずれにしても逡巡をともなうことでしょう。ともすれば贈られた本を見て怪訝な顔をされるかもしれません。場合によっては贈られる人のことを分かったつもりになっていると誤解を生むことになるかもしれません。読書に馴染みのない人にとっては荷物になるだけのことかもしれません。それでも、人に本を贈ることを朝陽館はおすすめします。

“あの人”の趣味に合った本を見つけたから贈る。
“あの人”と共感したいから本を贈る。
“あの人”に気持ちを伝えたいから本に託す。
“あの人”に会いたいから本を届ける。
“あの人”にも小さい時にお気に入りだった絵本を贈る。
“あの人”と違う意見があることを知ってもらいたいから渡す。
“あの人”の役にたつ本だから押し付ける。
“あの人”が暇そうだから分厚い本を選ぶ。
“あの人”の誕生日に他にないから本をあげる。
“あの人”にかっこつけたいから難しい本を差し出す。
“あの人”に読んで聞かせたいから手元に置く。

 理由はなんだって構いません。クリスマスや誕生日、バレンタインデーの贈りもでもいいし、なんでもない日に文庫本を包んでさりげなく渡すのもスマート。本の中に物語があるように、“あの人”とのストーリーが始まります。プレゼントした本が放り出されたら、あなたは傷つくかもしれません。それでも積ん読の一冊になったらしめたもの。読書家なら誰の手元にもあるように、それはいつか必要なときが来れば読まれる本になります。本の読み方は自由であり、あなたとの関係性も“あの人”にとっては自由なものです。だからと言って恐れることはありません。書物は、この世界のすべてにつながっています。無限に存在する書物から次の一冊を選べば、齟齬があっても修復が可能です。あなたの贈った一冊の本が、喜びや哀しみ、さまざまな発見を“あの人”に贈ります。その一冊は、“あの人”に喜びを贈るだけでなく、励まし、勇気を与え、支えになる可能性も秘めています。

あのひとに、そして、あなたにも。

 今回の特集棚の裏では、「本を贈る」という本を中心に、細部に渡り作り手の思いが込められた本を集め特集を組み、同時開催しています。15日からクリスマスまでは、朝陽館ギャラリー『蔵』で200点以上のしかけ絵本を集めた「とびだす絵本展」も開催。これを機会に大切な“あの人”へ本を贈ってみてはいかがでしょう。