皎天舎

明日への扉

新しい一歩がはじまります。新元号も【令和】と発表され新時代とともに春が訪れます。

春は新生活のスタートです。進学や就職によって大きく生活が変化し、これまで未体験の領域に新たな一歩を踏み込む人も多いのではないでしょうか。また、長い冬が終わりを告げ、縮こまっていた身体も意識も、暖かい日差しのもと地面を割り、伸びだす新芽のように悠々と動きだすことでしょう。 

別れや旅立ちのあとには、新しい出会いや新しい挑戦が待ち受けています。新しい友や仲間が生れます。その人々と共に取り組む課題があります。未知を埋める学びが必要です。書物は、その学びをアシストします。 

世界を埋め尽くすほどの花弁がサクラ色に染まりあなたを迎えます。胸の高まりは最高潮でドキドキ?心配の種は数えきれずハラハラ?妄想は膨らんでワクワク?そんな期待と夢が膨らむ数々のストーリーが書物にはあります。

いま、あなたの前の扉が開きます。扉の向こうには見たこともない景色が広がります。明日の光を見たいと思いませんか。ドアノブをしっかりと握り、その扉を開くのはあなた自身です。

書物は、新しいあなたの糧となる。


梅花の歌三十二首 幷せて序

天平二年の正月の十三日に、師老の宅に萃まりて、宴を伸ぶ。

時に、初春の令月にして、気淑く風和ぐ。梅は鏡前の粉を披く、蘭は珮後の香を燻らす。しかのみにあらず、曙の嶺に雲移り、松は羅を掛けて蓋を傾く、夕の岫に霧結び、鳥は穀に封ぢらえて林に迷ふ。庭には舞ふ新蝶あり、空には帰る故雁あり。ここに、天を蓋にし地を坐にし、膝を促け觴を飛ばす。言を一室の裏に忘れ、衿を煙霞の外に開く。淡然自ら放し、快然自ら足る。もし翰苑にあらずは、何をもちてか情を述べむ。詩に落梅の篇を紀す、古今それ何ぞ異ならむ。よろしく園梅を賦して、いささかに短詠を成すべし。  

新版 万葉集 一 現代語訳付き (角川ソフィア文庫) 


天平二年正月十三日に、師老(大伴旅人・おおとものたびと)の邸宅(太宰府)に集まって宴会を行った。折しも、初春の佳き月で、空気は清く澄みわたり、風はやわらかくそよいでいる。梅は佳人の鏡前の白粉のように咲いているし、蘭は貴人の飾り袋の香にように匂っている。そればかりか、明け方の山の峰には雲が行き来して、松は雲の薄絹をまとって蓋をさしかけたようであり、夕方の山洞には霧が湧き起こり、鳥は霧の帳に閉じこめられながら林に飛び交っている。庭には春に生まれた蝶がひらひら舞い、空には秋に来た雁が帰って行く。

そこで一同、天を屋根とし、地を座席とし、膝を近づけて盃をめぐらせる。一座の者みな恍惚として言を忘れ、雲霞の彼方に向かって、胸襟を開く。心は淡々としてただ自在、思いは快然としてただ満ち足りている。

ああ文筆によるのでなければ、どうしてこの心を述べ尽くすことができよう。漢詩にも落梅の作がある。昔も今も何の違いがあろうぞ。さあ、この園梅を題として、しばし倭の歌を詠むがよい。


新しい時代の幕開けは、なんとも大らかで美しい文章に著された。
希望に満ちた明日への扉が開かれる。