皎天舎

きんどら

たまには、ゆったり読書でもいかが。

長野で無料配布されているフリーペーパー、「Nagano Joho NEXT」9月号の表紙にこんなメッセージが。毎月、表紙には長野を代表するお菓子屋さん「旬彩菓たむら」のお菓子が季節に合わせて彩をのせていますが、今月はなんだか趣が異なります。たむらの焼き印の入った金鍔(きんつば)のようなお菓子が並ぶ背後には、本とウヰスキー。(え、酒ですか?)なにやら濃密な時間が流れていそうです。


実はこのたび、ながの情報さんから”旬彩菓 たむら”さんとのコラボ企画で、一緒に新しいどら焼きを開発するなんて大それたご提案をいただき、あんこを主食にしても生きていける、むしろありがたい、という店主は、スキップしながら打ち合わせに向かうほどの有頂天で参加させていただいたのでした。この表紙の真意をご理解いただくには8月号の記事を読んでほしい。そう思って読み返すと、企画会議の冒頭でさっそく私は餡子への思いをぶちまけているではありませんか。「餡子をアテに酒が飲める」と言い切っているのです。実際、自分で小豆を炊いて餡子を作るし、深夜に暗がりの中、ウイスキーのグラス片手にタッパーに詰まった餡子を平らげるくらいで、密かに活動する餡バサダーの一員でもあるのです。おそらく、関係者全員が予想もしなかった餡子愛好家が登場したことで想定外な方向に企画会議は盛り上がり、なんでもできる雰囲気が醸し出されてまいりました。それはもう、どんな無茶でも実現してもらえるような高揚感がございました。


本の形のどら焼きを作りたいです!

共同開発、といっても私は口出しするだけです。本屋らしくどら焼きの歴史を紐解いてみたり、プロフェッショナルに向かって偉そうに知識やアイデアを披露し、実現可能ですよねと迫ります。本屋ですからフィクションもノンフィクションも織り交ぜての口八丁を飛ばしているうちに、たむらさんの表情に明らかな苦悩が浮かびます。
そうして9月号の記事へ移りますと、堂々とした完成品が鎮座していますが、記事を読めばこの形にたどり着くまでの試行錯誤を窺い知ることができ、私としては、ちょっとだけ、ささやかながら、申し訳ない気持ちが胸に湧いてきます。なぜなら、少しだけ書かれているスフレロールの生地を使った試作品が、ホールケーキほどのサイズ感のわりにぺろりと完食できるほど美味しく、何もかも忘れてみんなでこれ食べましょうよっ、と言ってしまいたくなる名品だったから。試作で終わってしまったのがもったいない。

そんな夢の中から引き戻してくれたのも、たむらさんでした。本の形、販売できるサイズ、さまざまな条件をクリアした「きんどら」を完成させてくれました。「きんつば」じゃないかと声が聞こえてきそうですが、ここは声を大にして「どら焼きですっ!」と叫びます。なんせ餡子を包み込む皮、本で言えば表紙の部分はどら焼きの生地なんですから。2種類の皮を使った手間ひまかかる工程のきんどら。とても思いのこもった、丁寧に作られた本の装幀を思わせるお菓子ができました。コーヒーにもウイスキーにも合う程よい甘さの餡と爽やかな苦味の効いた抹茶の風味が香る生地、ありそうでなかった新感覚です。お気にいりの小説を開いて活字を追いながらのゆったりとした読書、そのお供には、きんどらが最高の伴侶です。夢のような時間へ読書家を誘います。ま、私なら表紙に載ってるくらいの数は悠々と食べてしまいます。

私のわがままにお付き合いいただき、職人魂と職人技の両輪できんどらを実現していただいた「旬彩菓たむら」様、この企画をいただいたカシヨ株式会社の皆様、楽しんで興奮して、美味しい思いをさせていただきました。ありがとうございました。

「きんどら」は、「旬彩菓たむら」ながの東急店にて限定発売。
8月19日、26日、9月2日、9日 各金曜日・限定50個・1個200円(税込)
書肆 朝陽館に併設する皎天ノ刻茶房でも購入いただけます。

旬彩菓たむら 本店
長野市伊勢宮1-18-14
026-228-9235 

営業時間 9:00ー18:00
定休日 月曜日

旬彩菓たむら ながの東急店
長野市南千歳1-1-1
ながの東急百貨店 地下1F

営業時間・定休日
ながの東急百貨店に準ずる